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まあこれくらいが消えやすくていいかと思ってたら、先輩が顎を引いて俺の顔を覗き込んできた。

「透……」
「なに?」
「そ、それ……僕もやってみていいか」
「はい?」

先輩からそんなこと言うなんて珍しいこともあるもんだ。今日はいったいどうしちゃったの?もちろん嬉しいんだけどさ。

「えーなになに?俺にキスマつけたいの?」
「う、うん……。……あっ!いや、きみは部活で着替えたりするよな。や、やっぱりいい……」
「大丈夫。つけていいよ」

堂々とつけてたほうが外野避けになるから逆に大歓迎ですけど?今更そんなの恥ずかしくもないし、むしろ先輩とのラブラブの証だし超自慢する。
ウキウキしながら元の位置に戻ってTシャツをめくり、胸でも首でもお好きにどうぞと差し出した。
先輩がやり方が分からないとかめっちゃ初々しいこと言うから、もーキュンキュン。でも俺もなんとなく感覚でやってるしぼんやりした説明しかできなかった。
形のいい綺麗な唇が俺の胸元に乗った。優しくてくすぐったい。

「そんなんじゃ付かないって。もっと強く吸わなきゃ」
「……ん……」
「ほらほらもっと強……いたっ!イテテテ!」

突然ギューッと吸われて、そこにちくちくした痛みが走った。
それがなんだかやたらとおかしくなって、大声で笑いながら先輩の肩を叩いた。

「先輩吸いすぎ!いやん優しくしてぇ」
「わ、悪い。い、痛くしてすまなかった……」
「ははっ、ちょっと大げさに言っただけだしそんな痛くないって」

や、結構本気で痛かったけど。血が滲んでるんじゃないかってくらい痛かった。でもこの慣れてない感じもいい。

「じゃあさ、慣れるまで俺で練習してよ」
「いや、ま、また今度にする」

そんなつまんないこと言わないで、いっぱいつけてほしいのになぁ。
だけど先輩は、自分がつけたキスマにもう一度キスをした。傷を癒すみたいに熱く柔らかい舌でそこをちょっと舐める。
何度も俺の胸にキスを落とす先輩。乳首にも軽くキス。控えめで、甘やかされてるような愛撫が気持ちいい。
気持ちよくてまぶたがとろんと落ちてくる。ダメだ、このままだと寝ちゃいそう。

「あのさ、ここでもいいんだけど……ベッド行かない?」

残念だけど、先輩の肩を叩いて中断した。起き上がって先輩の手を握る。そうしたら強く握り返された。
恋人繋ぎしながら寝室のドアを二人でくぐった。でも室内に入った瞬間ブルッと全身に震えが走る。薄暗い寝室は一転して冷気で満たされていた。
寒っ!暖房ついてないじゃん!風呂上がりのTシャツとパンツだけの薄着が堪える。

「あ、あの……部屋暖めるのを忘れてた……」
「先輩ってほんと、結構抜けてるよねー」

俺がからかうと、先輩はしょんぼりと肩を落とした。
あらら落ち込んじゃった。部屋が寒いことくらい全然気にしないのに、そこまでテンション下がっちゃうと可哀想で見てられない。

「――あっ、そうだ!部屋あったまるまで布団の中に一緒に入ってればいんじゃね?」
「え?」
「で、イチャイチャしてよーよ!ね?」

繋いだ手を持ち上げて先輩の顔を覗きこんだ。
俺は今、すぐヤリたいっていうより先輩と少しでも長く恋人の時間を楽しみたいって気持ちが大きいから、我ながらいい案だと思った。そうすれば先輩もリラックスできるし一石二鳥。
俺の提案に紘人先輩は、ものすごく嬉しそうな笑みを浮かべた。

あ、しまった大事なもの忘れるとこだった。一旦リビングに戻ってゴムの入った袋を持ってくる。
寒いけどもう脱いじゃお。先輩がもじもじして動かないから、先にベッドに滑り込んで布団を持ち上げた。

「先輩、先輩!寒いから早く入って!ほら!」
「お、お邪魔します……」

お邪魔しますって。なんで先輩が遠慮するの?そっちが家主でしょ。この人ほんと面白い。
薄暗い中、手探りで先輩がスタンドライトを点けた。暖色の明かりが俺と先輩を暗闇に浮かび上がらせる。
落ち着かなそうにもぞもぞする先輩の体を抱きこんだ。足も絡めて全身をくっつける。
つーか細っ。先輩細すぎ。俺だって痩せ型だけど先輩は圧倒的に筋肉が足りない。あんまり運動しないほうみたいだから仕方ないのかもしれないけど。

ああでもあったかいなぁ。そして先輩の匂いが濃くてドキドキする。
そういえば、エロいことするときにベッド使うことはあっても、こうして布団にもぐるのは初めてだ。
枕やシーツから香るいい匂いに包まれる。なんだろこの香り。ボディーソープ?洗剤?リネンウォーター?

「……このベッド、めっちゃ先輩の匂いする」
「えっ?そ、そうか?」

犬みたいにくんくんとシーツの匂いを嗅ぐ。
甘さと爽やかさのバランスが良くて、それでいてあんまり馴染みのない匂い。
先輩が使ってるシャンプーの類は外国製のオーガニック系ものだから、そのせいかな。先輩の体臭と混じり合ってなんとも言えないイイ匂い。
他人種の血が濃いせいか国内製のはあんまり体質に合わないらしい。そういうのって色々大変そう。


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