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バードキスじゃなくてしっかりと唇を合わせるキスをする。隙間なく唇を重ねるキスは興奮よりも安心感があった。
唇をゆっくり離したら表面が少しくっついていて、それがなんとも言えない名残惜しさをかき立てた。

「……あのさ、する前にシャワー浴びたいんだけど、いい?」
「そ、そうか、そうだな。よかったら先に浴びてくれ。あ、タオルは置いてあるものを好きに使ってくれて構わないから」

主に水泳部が使ってる学校のシャワー室は冬季の間は閉鎖される。だから今の時期、部活後は汗拭きシートや制汗スプレーを使うしかない。
そこまでやらないヤツもいるけど、俺は電車乗るしそのあたりを手抜きしたことはない。
だけど今日は部活終わったあとちゃんと汗拭く余裕もなかったし絶対臭い。このままエッチするのなんてデリカシーに欠ける。
それ以上に、今すでに勃っちゃってる俺のムスコさんを鎮めたかった。……風呂場で抜くのはナシだよな。排水溝見たら一発でバレるし。
時間置けば治まるはずだから、そういう意味でもシャワーを浴びたかった。

なのにシャワーのあともずっと勃ちっぱなしだった。かろうじて半勃ちくらいまでには治まったけど。
部活で汗かくからいつも何枚か着替えの予備を持ち歩いてる。新しいTシャツに着替えて、鏡の前で自分の姿をまじまじ見つめた。
よりによってこのパンツって。使い古しのカモフラ柄……せめて黒かグレーの単色にしておけばよかった。色付きじゃないだけまだマシか。
まぁ、あの先輩のことだしいちいちパンツなんて気にしないと思うけど。どうせすぐ脱ぐことになるから制服は着ないでこのままでいいかな。

バスルームから出ると、顔を上げた先輩が真っ先に俺の下半身あたりをまじまじと見た。
うっわ、ほんと勘弁して。浮かれた柄パンや微妙に盛り上がってる股間をガン見されるのって、どういう羞恥プレイ?せめて何か言ってよ。

「……ごめんね先に。ありがと」
「あ、ああ」

先輩はさっと視線を逸らして入れ替わりにバスルームに篭った。
いやマジで何か言って!……あ、なんか今のでちょっとチンコが落ち着いた気がする。挫けてなんてないから、ほんと。ちょっと冷静になったっていうか、それだけ。

誰に言い訳してるのか分からない意味不明な弁解を内心でつぶやきながらリビングをぐるぐると歩き回る。
すぐに風呂場からシャワーの音が聞こえてきた。これから先輩とエッチするんだと思うと、嬉しいのと怖い気持ちが半々。
失敗したらどうするかな。中折れとかダサいことにならないといいけど。
俺がヘタれるだけならまだいい。でも先輩が痛いとか気持ち悪くなったとか、そういうイヤな気持ちにさせたまま終わらせたくはない。

あれこれ考えながらリビングを徘徊してたら、棚の上に見覚えのある黄色いビニール袋を見つけた。安っぽい色合いと柄のそれは先輩と一緒に行ったディスカウントストアのものだ。
立ち止まって手に取る。こんな目に付く場所に置きっぱなしで、あの人は無頓着っていうかずぼらっていうか……。
苦笑しながらビニール袋を持ち上げたら、同じ棚に置いてあった一冊の本が目に入った。それを見た瞬間、大声を出しそうになって慌てて手で口を押さえた。

『HiMMel』というロゴが書かれているメンズ雑誌。そしてこれ、これって……俺のスナップが載った最新号!?

え、ウソ、なにこれ。先輩もしかして、全然興味なさそうな顔してたくせにこっそり雑誌持ってたの?
散々見たこの雑誌――俺も一冊買ったから家にあるけど、や、兄貴も買ってたから二冊か――それがどうして先輩の家にあるの?

ドキドキしながらそれを手に取る。するとパラリと本が開いた。
俺の載ってるページがすぐに出てくる。何度も開いて癖がついてるみたいに、簡単にそこが開いた。
ごちゃごちゃした棚の中をのぞいてみたけど同じ雑誌は他になかった。参考書や英文学とかの先輩らしいお堅い本しかない中で、このファッション雑誌だけが異彩を放ってる。

いつも読まないような雑誌を手元に置いてるのは、俺が載ってるから?
やばい、顔が熱い。俺って思ってる以上に先輩に好かれてるのかも……あーどうしよ!すげー嬉しい!

その場にうずくまって悶えてたら、シャワーの音が止まった。
ビニール袋と雑誌を持ってテーブルの傍のラグに座る。先輩の反応が楽しみで、ニヤニヤしながらバスルームから出てくるのを待った。
先輩はまた制服を着てたけどシャツとスラックスだけで、タイもベルトもしてない。学校にいるのと違って軽装だし風呂上がりなのもあってめちゃくちゃ色っぽく見えた。

「透」
「んー?」
「ま、待たせたか?」
「大丈夫だよ。てか先輩ちょっと、こっち来て」

手招きすると、先輩は首をかしげながらも素直に俺のところに来た。
そして先輩が俺の隣に座った瞬間、テーブルの陰に隠しておいた雑誌を取り出して見せた。

「ねー先輩、これなあに?」
「……あっ!え、えっと……それは……っ」

みるみるうちに先輩の頬が紅潮する。予想以上の可愛い反応にニヤニヤ笑いが止まらない。
せわしなく体を揺らして何か言い訳を考えてるみたいだったけど、俺は追及をやめなかった。

「これってさぁ、俺のスナップが載ってる号だよね?」
「あ、その、そう……」
「んー?なんで先輩んちにあるの?」

ちょっと意地悪な言い方で聞いてみれば、先輩は耳まで真っ赤にしながら俺の手から雑誌を取ろうとした。それをかわして更なる追撃。

「ねえ、なんでー?」
「なんでもいいから」

雑誌を取ろうと手を伸ばしてくる先輩を何度もかわす。やべ、チョー楽しい。
だんだんと好きな子に意地悪する小学生の気持ちになってきて、必死に追いかけてくる紘人先輩をからかうように笑った。
俺のひねくれたイタズラに先輩がムッとする。そのいじけた表情がまたすっごい可愛い。

「もう、いいから返してくれ!」
「先輩いつもこういうの読むの?誰かに借りたの?」
「どっ……どうでもいいだろ、そんなこと」

空いた手で先輩の腕を強く掴んだ。驚いて目を丸くする表情が目に映る。

「――良くないよ」

掴んだ腕ごと先輩を引き倒した。
倒れ込んでくる体を受け止めたけど、不意打ちだったみたいでかなり遠慮なしに体重をかけられた。その重みも愛しい。


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