17


「――天羽」
「な、なに?」
「お前ってどうしてマネージャーになったの?バスケやろうとは思わなかったの?」

気を紛らわせるためになんとなく疑問に思ってたことをぶつけてみたら、視界の端で天羽が首を傾げた。
華奢で小柄に見える天羽はバスケに不利なほど背は低くない。部活が身長や体格で決まるわけじゃないけど、どうしてそっちを選んだのかずっと気になってた。
天羽は少し考えたあと、ぎゅっと手に力を込めて俺にますます寄り添ってきた。

「……僕、運動にあんまり向いてないから。でも、近くで見てたくて」
「バスケを?」
「と、透くんを……」
「は?俺?」

意外な答えに驚いて天羽の顔を見る。
その表情は硬く強張っていて、俺の笑いを取るつもりで言った言葉じゃないらしい。寒さで白い頬がピンク色に染まってる。

「部活どこにしようかなって考えてたとき同中だった友達に見学に誘われて、そのとき透くんがバスケやってるとこ見て、楽しそうでいいなぁって思ったから」
「あー……俺は迷わずバスケ部だったからね」

仮入部のうちに早くから練習に混ざってたから、そのときのことかな。本格的な練習じゃなくて3on3みたいな楽しいことだけやらせてもらってたし。
最初からハードな練習だと未経験者の部員が逃げちゃうんで、新入部員にはそういう風にしてるってあとで聞いた。

「それに、同じ部活になれば透くんと話すきっかけもできるかもって思って……」
「ん?フツーに話してたじゃん。グループ一緒だったし」
「そうだけどっ、そうじゃなくて……っ」
「なにそれ。ワケ分かんね」

出席番号が男、女、男、女の順番だから、入学当初の席は秋葉、新木、天羽……って感じで、俺の席のうしろがちょうど天羽だった。
授業でグループ組まされるときは近い席で四人とかだったから天羽とは一緒になることが多くて、結構話してたと思う。
でも二学期になって席替えして離れたし、たしかに部活の繋がりがなかったらそんなに話すことなかったかもしれないな。

「……で、それでマネージャーなんだ?」
「そうだよ。あっでも、マネージャーもやりがいあるし楽しいよ!やってよかったって思ってるし!」
「うん、いつも助かってる。ありがと」

部員だけじゃ手が回らない細々としたことを天羽は一生懸命やってくれてる。そんなのはちょっと見てればよく分かる。
天羽が少し体を離して、俺をじっと見上げてきた。

「……あの、あのね。ほんとは僕、知ってたんだ……」
「なにを?」
「透くんに好きな人いて、付き合ったりしてる、こと。なんとなくだけど、分かってた……」
「……そんなバレバレだった?」

それが誰かっていうのは天羽ははっきり言わなかった。けど、もう知ってるのかもしれない。だいたい今のこの状況がそれを物語ってる。
天羽が、バスケ部の見学に来てくれた紘人先輩を追い払ったって知ったときは結構キツく怒った。ただのいち先輩に対する態度にしてはおかしいと気付かれて当然だ。

「だけどあの人は、やめたほうがいいよ」
「…………」

はっきりとした否定の言葉に一瞬あっけにとられた。まさか天羽からそんなこと言われるなんて思いもしなかったから。

「……なんで」
「透くんと、合わないと思う。合わせるの大変そうだもん」
「だからなんでお前がそんなこと言うわけ?関係ないじゃん」
「あるよ!……だって僕、ぼく、は、透くんのことずっと見てた、から……」

だんだん萎んでいく小さい声はうまく聞き取れなかった。
聞き返そうとしたところで、カフェのドアが開いた。暖かい空気と光が漏れ出てくる。その中から俺の恋人が姿を見せた。

「透……?」

紘人先輩が、俺の名前を呼ぶ。昼間の廊下では気付いてくれなかったのに、今度はすぐに俺のことを見つけてくれた。
何か物言いたげに口を開いたけど、その唇は引き結ばれた。呆れてるかな、怒ってるのかな。こんなところまで追いかけてきた俺のこと。
先輩が一歩後ずさる。その背後には真田先輩がいて、紘人先輩をすかさず受け止めた。

触んなよ、その人は俺のだ。
なんかもう、こんな些細なことですら許せなくなってる。

その気持ちが顔に出てたのかもしれない、真田先輩がいかにもイラついたって感じの表情で俺を睨みつけてきた。
そのとき直感した。真田先輩、紘人先輩への態度が前見たときよりもおかしくなってる。ただの友達にしては踏み込み方が危うい。紘人先輩を自分のところに縛りつけようとしてるように見える。
たぶん、ネットワークの広い真田先輩の耳にも例の噂はとっくに入ってるはずだ。それなのに一向に否定もせず揉み消そうともしてない。この人にとってあの話は不快でもなんでもないんだ。

真田司狼は、俺の敵になる人だ。


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