14


昼休み後はもう、またやっちゃったっていう後悔でいっぱいだった。机にぐったり倒れこんで一人反省会。クラスのヤツらに声かけられてもまともに応える余裕なんかなかった。
ダメだなぁ、俺。全然学習してない。先輩のあの様子じゃ、今頃俺に呆れて怒ってる。
しばらく先輩と離れたほうがいいのかも。
近づいたらそのぶん欲張りになるし、せめて真田先輩の噂が沈静化するまで冷却期間作ろうかな。あーでも先輩の顔見れないとストレス溜まる。

自己嫌悪で落ち込んでたらスマホにメールが届いた。
――紘人先輩からだ。このタイミングでメールって、中身を見るのが怖いんですけど。
複雑な気持ちで画面をタップしたら『明日、少しでいいから会って話せないか』というなんとも戦慄の内容が目に飛び込んできた。
これがデートのお誘いだったら嬉しいんだけど絶対違うよな。説教か、最悪距離置こうって話し合いか。
どうしようこれ、超逃げたい。

つーかこんなに彼氏の顔色伺う付き合いってどうなの?俺と先輩って、ちゃんと付き合ってるって言える?
……やばい俺、めっちゃネガティブ入ってる。
こんな不安定な状態のまま返信なんてできなくて、メールの返事は一旦保留にしておいた。

放課後の部活では胸がざわついてあんまり調子が出なかった。一連の動きは体が覚えてるからこなせるけど、気持ちが入らない。
今日は立花先輩がまた来ていた。火曜から引き続いて今週はずっと来てるけど、この人、受験勉強とか大丈夫なの?
練習は早めに切り上げて締めのミーティングを長めに取ったのも、たぶん立花先輩がいたからだろう。
トミーがミーティングの終わりに立花先輩に視線を送り、先輩は今日の練習のよかった点、悪かった点をぽつりぽつりと要点だけ話した。
そんなにぺらぺら喋る人じゃないのにひと言ごとに説得力がある。
部長の先導で全員で締めの挨拶をする。そうして本日の部活が終わった途端、俺は立花先輩に呼ばれた。

「秋葉」
「えっ、はい?」

ちょっと、と手招きされて立花先輩のあとについていった。先輩は部室を出て体育館脇の水飲み場近くへと赴いた。
今日は昨日よりも寒くて、吐く息が白い。立花先輩、コートもなにも着てないのに寒くないのかな。

「えっと、なんですか?」
「……秋葉お前、何か悩み事でもあるのか」
「え……」

いきなり何の話?悩みならたくさんあるけど、立花先輩に聞かせるような類の内容じゃない。

「……えーっと……先輩、どしたんですか突然。カウンセリングにでも目覚めたんすか?」
「自分では気づいてないかもしれないが、お前、精神状態がすぐプレーに出るから」
「……は、い?」

精神状態が出てる?バスケしてて、そんなに分かりやすく?

「……ちょっと、言われてる意味が分かりませんね」
「詮索されたくないなら無理に言わなくていい。ただ、お前は良くも悪くも周囲に影響を与えるから……。わかるか?秋葉がノってないとメンバー全員、萎んだようになるんだ」
「そう……ですか?」

そんな感じには思えなかったけど。それとも俺が自分のことしか見えてないから、気付かなかっただけ?
立花先輩は、は、と白く大きな息を吐いた。

「責めてはないからそんな顔するな。気をつけろと言いたかったんだ。秋葉はチームの空気を一瞬で変えられる。それは武器にもなるし、時に仇にもなる」
「…………」
「俺個人の意見だけれど――」

先輩が俺を真っ直ぐに見据える。試合のときに見せる、一ミリも曲がらない真剣さで。

「――次の部長はお前がいいと思ってる」
「……いやいや、新部長になったばっかじゃないですか」
「そうだな」
「そうだなじゃないっすよ。なに言ってるんですか」

ほんとに、何言ってるんだろうこの人は。こんな人に、尊敬する人に認められたみたいな言葉を聞いて、なんか、鼻の奥が刺すように痛くなった。

「お前の信じる奴を、信じてやれよ」
「……そう……したい、です……」

この人イヤだ。話に脈絡ないくせに俺に直接響くことを言ってくる。
手に持ったタオルで口元を拭った。昼休みに紘人先輩としたキスの感触はとっくに消えてる。
どうしてあれを、ずっと留めておけないんだろう。触れた温度も柔らかさもあっという間に消えてしまう。覚えてるのはキスしたときの感情だけだなんて。

肩をポンと叩かれて顔を前に戻すと、立花先輩と真正面から視線がぶつかった。
先輩はそれ以上何も言わず、部室じゃなくて校舎のほうへと去って行った。

何かを信じるにはそれだけの確証が必要だ。何もないものを盲目に信じるなんて、余程の聖人でない限り耐えられない。
俺は自分の目で確かめなきゃ、きっとこのモヤモヤもイライラも晴れない。


prev / next

←main


×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -