13


授業が終わったらダッシュで視聴覚室に滑り込んだ。先輩が来る前に自分の分の弁当をかき込む。
でも弁当が空になっても来るのが遅くてちょっとハラハラした。もしかしたら怒ってるせいで来ないのかも……そんな不安がよぎる。
だけど先輩は約束通りちゃんと来てくれた。おまけにいつもの先輩に戻ってるし。

「待たせたな」
「んーん、そんな待ってないよ。先輩ここ来て、ここ!」
「ああ。……今日は吉住君や園田君はいないのか?」
「いないよー。先輩独り占め!」

先輩と二人で昼メシ食べたいから誰も来るなってあらかじめメッセ送ってあるから、視聴覚室には俺と先輩だけ。メッセ見逃した誰かが来たとしても今日は追い出すつもりだし。
先輩にさっそくサプライズ弁当を渡そうとして、ふと俺の手元をじっと熱く見つめる視線に気付いた。それを見てちょっとした悪戯心が頭をもたげる。
俺が料理を始めてから作った回数が一番多いのが卵焼きだ。その渾身の卵焼きをひと切れ箸で持ち上げ、先輩に向かって差し出した。

「先輩、あーん」
「……! あ、あ、あの……っ」

わお、先輩まっ赤。頬がちょーまっ赤。
さっきみたいに少しでも不機嫌になったらやめようと思ったけど、この感じだともう一押しすれば食いつきそう。

「ほら、あーん?」

せわしなく視線を彷徨わせていた先輩は、喉仏をごくりと動かし、やがて齧りついてきた。
ちょっとひと口どころじゃなく、先輩に全部持っていかれる。これは思ってた以上の食いつき。

「美味しい?」
「ん……」
「はい、あーん」

続けてハンバーグも。
母さんが謎の創作料理を作ってばっかりなせいで反面教師的に俺はスタンダードな料理が好きだ。レシピに忠実な、それでいてボリュームもしっかりある定番かつ見た目から美味しそうな料理。
ハンバーグはそのなかのひとつ。これぞハンバーグ!って感じの一品。
先輩はそれも俺の手から食べた。一度食べちゃったらもう吹っ切れたのか、今度はすんなりと先輩の腹に収まる。
なにこれめっちゃ楽しい!先輩が超絶かわいいんですけど!
赤い顔して次々に食べていく紘人先輩。おかずだけじゃなくてご飯まで。まっ赤なミニトマトを口に含んだ姿がどこかエロくて、今度は俺のほうがごくりと喉を鳴らした。
そうして弁当箱がすっかり空になったことに気付いた先輩が、今更になって慌てて謝ってきた。

「あっ……!透、ぜ、全部食べてしまってすまない……」
「いーの。これ、もともと先輩のために作ってきたやつだから」
「え?」
「自分のはもう食っちゃった」
「……そ、それならそうと、はじめから言ってくれればよかっただろ。なにも手ずから食べさせなくても……」
「俺がしたかったから」

まさか本当に乗ってくれるとは思わなかったけど。先輩ってこういうとこ妙に無防備で可愛いんだよなぁ。

「……ありがとう。ごちそうさま」
「どーいたしまして」

こうして律儀にお礼を言うところも好き。マジで先輩のなにもかもが好き。
だから俺に、少しだけご褒美をちょうだい。

「ね……先輩」
「な、なんだ」

ちょっとじっとしてて、と囁いて、ミニトマトより艶があって瑞々しい先輩の唇に、自分の唇をそっと重ねた。
音ひとつしない、ほんの一瞬のキスだった。久しぶりに触れた先輩の唇は柔らかくて、痺れるほどゾクゾクした。

「と……」

足りない。もっとしたい。好きだよ先輩。
逃げないで、お願い。紘人――先輩。

「い、いやだ……」

小さく漏らされた拒絶の言葉が耳の奥にぐわんと響いた。
――分かってたことだろ。先輩の設けたルールから逸れたらそういう反応されるって。
顔を背ける先輩の肩を掴んで、俺は彼に無理強いしてる。

でも、心底ショックだった。軽いキスくらいなら許してもらえるかもしれないって、俺はどこかで期待してた。
二人きりで他に人はいない。ただ場所が学校だってだけ。むしろ誰かに見られて俺たちの関係が公になってしまえばいい、そんな昏い思惑もあった。

「……ごめん。学校でこーゆーのダメだってのは、ちゃんと分かってるから」

謝って、分かってるなんて言いながら内心では全然納得してない。
ほらまた、先輩を困らせた。やっぱり俺は自己中のガキだ。

俺がこんなにも好きだからって紘人先輩もそうだとは限らないんだと、痛く思い知らされた昼休みだった。


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