17


透は、リビングからスキンとローションの入ったビニール袋を持ち込み枕元に置いて、Tシャツを脱いで下着姿になった。そうしてさっそく上掛けを捲り上げてベッドに滑り込んだ。
「寒いから早く!」と急かされて、僕も彼の隣におずおずと入る。

「お、お邪魔します」
「いやいや先輩のベッドなのに何言ってんの?」

くく、と喉で楽しそうに笑う透。たしかに自分の家の自分のベッドなのに変な言い方をしてしまった。
居心地悪く思いながらもヘッドボードの棚に置いてあるスタンドライトを点ける。
布団の中でもそもそと動いていたら透の手が僕の体に回された。さらに足まで絡んできて密着度が増す。

「……このベッド、めっちゃ先輩の匂いする」
「えっ?そ、そうか?」
「うん。いい匂い」

すんすんと犬のように鼻を鳴らしながらシーツに顔を埋める透にハラハラした。自分では分からないけれど、せめて汗臭くなければいいのだが。
あまりそうされると恥ずかしいので気を逸らすために話を振った。

「あの、そういえばこの前言っていたデートっていうのは、どこに行くつもりだったんだ?」
「んー?ちゃんと決めてたわけじゃないけど、映画とか行きたいなって思ってた。ちょうど見たいヤツが公開日だったから」
「へえ……」
「マイナーなB級アクションもので、好きな俳優が出てるから観たいなーって思って。先輩の好みじゃないかもだけど」

映画の好みは別にないけれど、透が好きな俳優というのは興味がある。

「だったら、次の休みの日によければ行かないか?」
「ほんと?」
「ああ。きみの予定に合わせるから」
「……なんかごめんね。部活とかそーゆーのばっかで。つか、待たせたりすんの悪いし遠慮してたんだけど……」

透の言葉が小さくなったので擦り寄った。
彼も色々と気を回してくれていたんだなと思うと、熱くこみ上げるものがあった。

「さっきも言ったが、僕はきみと一緒にいられるのが嬉しいんだ。僕はそれほど予定が詰まってるわけじゃないし、待つことくらい別に構わない」

そう言うと、透が息を呑んだ気配がした。

「……この前、ゴム買いに行ったじゃん?」
「ん?ああ」
「あの時さぁ、実は俺、すっげービビッてたんだよね」

意外な台詞に驚いて、近くにある透の顔に焦点を合わせた。彼は照れ笑いをしている。

「そんな感じには見えなかったが……」
「してたんだって!だって付き合ったばっかでデートとかもあんましてないのに、ヤリ目みたいに思われたらどーしよとか、それで嫌われたら怖いなあって。ほら、先輩ってそういうとこ余裕っつかガツガツしてないし」
「やりもく?」
「エッチ目的……うーん、体目当て?ってこと」
「あ、そ、そうかなるほど」

透は今まで女子とノーマルな恋愛しかしてないと聞いていたから、男の僕に対して『体目当て』という発想はまるでなかった。
むしろ僕のほうがよほど不健全な妄想に耽っていたんじゃないだろうか。
そう考えると透が僕に抱くイメージとのあまりの違いに申し訳なさが湧いてくる。僕は言うほど禁欲的でもなんでもないし、透をいやらしい目で見ているのに。

「俺っていつも、ヤリたいとかそんなことしか言ってなくね?ってあとで気づいて焦ったんだよね」
「え、えっと……」
「エッチしたいのは本心だけど、そういうのだけじゃなくて、ほんとに先輩のこと全部好きだから。一緒にいたくてしょーがないのは俺も同じ」

胸の奥、心臓がぎゅうっと掴まれた気がした。
好きな人が、同じように好意を返してくれる。そのことが痛いほど幸せだ。

「……名前」
「え?」
「『先輩』じゃなくて、名前で呼んでほしい……」

精一杯甘えた声で懇願すると、僕の恋人は笑みを消した。視線が熱を帯びる。透も、そして僕も。

「――紘人」
「……ん」
「紘人」

透はばさりと上掛けを跳ね上げて僕の上に跨った。寒さを感じるその前に、シャツのボタンを素早くはずしながら首筋に噛みついてきた。

「と、透……っ」

突然圧し掛かられたからびっくりして彼の肩を掴んだ。しかしその手をシーツに押さえつけられる。
押さえ込まれたまま、ちゅ、ちゅ、と音を立てて素肌に口付けられ、ときに吸われ、乳首を甘噛みされた。
彼の並びの良い歯がところどころ当たる。それが痛いのか気持ちがいいのか――ただ体は熱くなる一方だった。
少し乱暴な愛撫はだんだんと下腹部に移動し、やがてスラックスに手がかかった。

「あ……ぁ、透……」
「……ちょっと腰上げて」

言われるがままに腰を浮かせたら下着とともにスラックスがずるりと一度に脱がされた。
恥ずかしいことに、僕のそこはもうかなり前から勃起していた。たぶん透もそれに気づいていたはずだ。


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