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「そんなことないって。普通に合わなくなって別れるだけだから」
「そーかな〜。あ、でもマナカはひどかったよね。二股したのはあの子のほうなのにさー、今カレが優しくないからトオル君とヨリ戻したいってずっと言ってるし」
「うわ、マジで?」

噂話、恋バナ大好き!な女の子の気持ちはわかる。
でもデリケートな俺の傷をえぐらないでほしい。そう思っても笑顔で対応するくらいにはスルースキルのある俺だけど。

「もう恋人いるし無理だからって言っといて」
「わかってますって。つかやめときなって何度も言ってるんだけどね」
「まあそんなのどーでもいいんだけど」

人の恋愛沙汰に興味津々って感じの彼女の話題をさりげなく逸らながらビールを飲んでると、太腿あたりに何かもぞもぞとしたものが這った。
そのあたりを見てみたら、手が置かれてた。――天羽君の。
えーと……これはどういうリアクションを取るべき?なんてことを考えてるうちに彼女は反対側に座ってるヤツと話し始めてしまった。

「……天羽君?」
「トオルさん、ちょっと抜けませんか」
「なに、ここじゃ話せないこと?」
「……はい……」

なんとなく嫌な感じがして顔が強張る。天羽君は酒も飲んでないのに頬が赤くて、俯きがちに瞬きした。
だから、俺はそこまで鈍くないんだよ。
ああやっと分かった。この前、鍵をわざと置き忘れたとか言ったのは俺に意識させるためだったのか。紘人のことしか入る余地のない俺の心の隙間を突くための小細工。
いつもなら軽くかわせるのに、紘人のここ最近の態度や聞きたくもない元カノの話が重なったせいで動揺した。

「……悪いけど、そーゆー内緒話はナシね」
「でも、あの」
「ごめん。用事思い出したから俺もう帰る」
「あっ、ぼ、僕もっ……」
「今日の主役がいなくなっちゃ寂しいでしょ?」

近くにいた別の女の子に天羽君を強引に託して、自分の分の勘定を勇大に渡したあと逃げるように店を出た。



帰り道、イヤホンを耳に詰め込みスマホから流れる音楽で周囲の音を遮断した。
電車に乗って夜の街を見ながら天羽君に撫でられた太腿をさする。

紘人以外の男は対象外だけど、なまじ男とやるってことを知ってるだけにそういう好意を向けられると妙に生々しい想像をしてしまう。
天羽君はきっとそれを分かってやってる。そうじゃなきゃあんなあからさまなボディタッチなんてしないだろ。

だから、何も聞きたくない。知らない振りをしていたほうが楽だ。

ビール一杯しか飲んでないのに一気に酔いが回ったみたいにグラグラした。
気が急いている時ほど道のりは遠のくように思える。
紘人の家に着くまでの間、変に気が高ぶって信号待ちの間ずっと足踏みをしたり意味もなく拳を握って開いたり、とにかく落ち着かなかった。

オートロックを抜けてコンシェルジュの挨拶も素通りして、そうして辿り着いた恋人のいる場所。
革靴があったから紘人はちゃんと帰ってきてるんだってことを確認して家に上がる。

「ただいま」

そう言っても返答はなかった。時間は――九時を回ったところか。
風呂にでも入ってるのかなと思ったら、紘人はすでに就寝中だった。マジかよ。早すぎじゃね?


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