12


一度自分の家に戻って片づけをしてから紘人のマンションに帰って来ると、中は無人だった。
座り心地のいいソファーに沈みながら、計算高い女の子のようなことをした天羽君について考える。

天羽君いわくわざと鍵を忘れたらしい。
俺との時間を作ろうとしたのか、俺と紘人の時間を邪魔するためにやったのか、どっちかは分かんないけど、そのこと自体を怒ったりはしてない。
鍵を届けるって提案したのは俺のほうだし電車が遅れたことはマジで偶然だから。
どうやらあの子は俺のことを、どこまで本気かは不明だけど恋愛の意味で好きっぽくて、その上で紘人に対して嫌がらせみたいなことをして……。

「うーん……」

だからどうするかって話でもないんだよなぁ。
紘人と天羽君がこれ以上会うことはないだろうし、俺だってあの子に対して特別な感情も抱いてないわけだし。

とりあえず、そのことは一旦忘れよう。
もう昼時なのに紘人が帰ってきてないってことは、きっと友達と一緒に食ってるんだろうな。寂しいけど一人飯を済ますことにする。

ところがこの日、紘人は夜になってもなかなか帰ってこなかった。



久しぶりに会った友達と盛り上がってんだろうと思ったら、連絡を入れるのも躊躇われた。でも内心すげー焦れながら紘人が帰ってくるのを待っていた。
もしかして事故にでも遭ってんのかな、もう少ししたら電話してみよう――そう思いながら風呂から出たところで、ようやく玄関から物音と人の気配がして慌てて出迎えた。

「紘人!!」
「……と、透?」

靴を脱ぎながら驚いた顔をした紘人にぎゅっと抱きつく。
あー良かった、紘人だ。だいぶ酒臭いけど何事もない無事な姿に安心する。

「もー遅かったじゃん!俺、心配しちゃった」
「あ……すまない、連絡してなかったな。今日の予定、台無しにしてしまって悪かった」
「んーん、いいよ別に。楽しんできた?」
「……ああ」

頷いたわりに冴えない表情の紘人。でも、俺に擦り寄って抱きついてきた。

「本当にすまなかった。今日の埋め合わせはちゃんとするから」
「いいって。俺だって、なんか朝から迷惑かけちゃったしさ。気にしないで」

そもそも一緒に住んでるようなもんだから、たまの休日が潰れたからってそう目くじら立てることもないし。
ただまあ、心配のしすぎでエッチしたい気分はどこかに飛んでっちゃったけど。

少しふらついてる紘人を支えながら風呂に連れて行く。
髪や服からはアルコールと煙草と……知らない香水みたいな匂いがした。それは紘人が好んで纏う香りとも俺が使ってるフレグランスとも違う。
そのことがやけに気になって、胸がざわついた。

風呂から上がると、紘人は眠そうにしながらも俺に甘えてきた。可愛いけどこんな風にベタベタ甘えるのって珍しい。
ちょっとじゃれあったあと、紘人はスイッチが切れたようにすとんと眠りに落ちてしまった。
人の多い場所にいたせいでよっぽど疲れたみたいだ。

今日は高校時代の部活の集まりで軽い食事のあと、場所を移して飲み会になったらしい。
祝日だから結構な人数が来たようで、おまけに紘人がそういう集まりに行くのはあんまりないことだったから色々と近況を聞かれたりして長くなったんだとか。

高校時代の部活って何?って聞いたら社会部とかなんとか、よく分からない答えが返ってきた。なんとなく紘人らしい真面目っぽい感じがするけど。
部活内容を聞こうとしたところで紘人が寝ちゃったもんだから、中途半端に放り出された形で俺と紘人の本日のラブラブタイムは終了した。


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