11


「もしもーし」
『電話に出られなくてすまなかった。メールを見たが、まだ電車は止まってるのか』
「そーなの。ちょっとまだかかりそうなんだよね」
『そうか……。だったらその、相談なんだが』
「なに?」
『実はさっき学生時代の友人から連絡があって……友人の一人の結婚が決まったお祝いで、これから皆で集まるらしいんだ』
「へ?あ、そうなんだ」
『きみが帰ってくるのがまだなら、少しだけ顔を出してきてもいいか?そう遠くない場所なんだ』

申し訳なさそうな紘人の声が通話口から聞こえる。
あ、それでさっき電話つながらなかったんだ。

「うん、いーよ。社会人じゃ都合合わせて集まるのって大変だもんね。俺のことは気にしなくていいから行ってきて」
『本当にすまない……』
「いいって。こっちも帰れるのいつになるか分かんないしさ」

口では物分り良いこと言ってるけど、内心では焦れていた。
帰ったらイチャイチャして思う存分エッチして、とかいう下心がぐらつく。せっかく紘人もその気になってくれてたのに。
だからって紘人の意向を無下にはしたくないから、ここはぐっと自分を抑え込む。

通話を切ると、天羽君のでっかい目と視線が合ってビビった。じっと俺の顔を覗き込んでくる宝石みたいな瞳。

「……あー、っと、なに?」
「いえ。トオルさんかっこいいなって思って」
「あ、そ?んー、ありがと」
「そうやって褒め言葉を嫌味なく受け取れるのも素敵ですよね」

にこっと綺麗な微笑みを浮かべる天羽君。
かっこいいなんて言われ慣れてるけど、思わず返答に詰まってしまった。うーん、なんだろうこの褒め殺し。どうも調子が狂うな。
間が持たなくてうなじを無意味に掻いてたら、視線をずらした先の自販機に目が付いた。

「電車まだみたいだし、何か飲む?おごったげる」
「えっ、そんな悪いですよ。むしろ僕のほうが、わざわざここまで来てもらったお礼しなきゃ」
「そんなんいらないって。つか、もともと俺らが天羽君に酒飲ませたのが悪いんだからさ」

まあ飲ませたのは俺じゃないけど、一応成人としてちゃんと気を付けてあげられなかったこっちの責任でもある。
自販機の前に引っ張っていくと、天羽君は果汁100%のジュースを選んだ。俺はミネラルウォーターを買って、二人して飲みながらお互いの趣味のことや服のことを話した。
天羽君は、プライベートで着てるものはHiMMelのテイストからははずれてる。ゆるっとしたカーディガンにサルエルを合わせたりしてちょっと可愛い系?
俺とは好みが違うけど、それが逆に新鮮だった。持ち物のセンスもいいし。

彼はすでにいくつかアイドルユニットに誘われてるらしい。でも音痴だからボイトレを頑張ってるんだとか。
俺はモデルみたいな芸能活動はバイトだけで本業にするつもりはないから、将来を見据えて真剣にやってる天羽君のことはすげーと思う。
数年後にはテレビで天羽君を見かけるようになるのかもしれないと思うと、不思議なような、楽しみなような気持ちがした。

「……あっ、復旧しましたよ!」

天羽君の言葉でまた電光掲示板を見上げる。そこにはたしかに上下線運転再開の文字。
すぐに天羽君が乗るほうのホームに電車が来ることを告げていた。

「結局一時間かあ。かなり時間食っちゃったね」
「そうですね。あの、本当にありがとうございました。それにジュースまでおごってもらっちゃって」

天羽君が頬を染めながら軽く頭を下げるから、俺は笑って返した。

「だからそんなん気にしなくていいって。じゃ、気をつけてね」
「はい」

電車がホームに入ってくる。
空気が抜ける音とともにドアが開いて、そして天羽君がゆっくり振り返った。

「――鍵、わざとトオルさんの家に置き忘れたって言ったら、どうします?」
「え……」

俺と天羽君が電車のドアで隔てられる。
ホームのアナウンスも、周りの喧騒も遠くなったように感じた。
言葉を失う俺に向かって、天羽君は小悪魔のような艶やかな笑みを浮かべながら軽く手を振った。


prev / next

←back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -