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そんなことを考えながら風呂を出ると、透は相変わらずテレビ画面をじっと見ていた。隣に座って僕も一緒にそれを見る。

「何観てるんだ?」
「んー、これ」
「ずいぶんマイナーなものを観てるんだな」
「うん。ストーリースカスカでクソつまんないよ」

やはり透は少し機嫌が悪い。
それはいつもの透にとっては褒め言葉なのだが、やけに言い方に棘がある。

「いいじゃないか。きみの好きな頭空っぽにして観られるアクションだろ」

そう言うと、透が僕の肩に頭を乗せてきた。例の予測のつかないスキンシップにドキリとするが、引き離す気にもなれなくてそのままにさせた。
しかし透は更に擦り寄ってきて、僕の耳元にその綺麗な鼻梁を寄せた。
そのままくんくんと匂いを嗅がれ少し焦った。風呂上がりだがもしかしてまだ汗臭かっただろうか。
でもその様が主人に懐くペットのようで思わず笑ってしまった。

「犬みたいだな、きみは」
「そう?俺を飼ってくれる?」
「考えておく」

そうやって繋ぎ止めておけない男だと知っていて、言葉遊びを返す。
それで離れていく。いつもそうだった。
……それなのに、今日は違った。

そうされたまま映画をぼんやり観ていると、突然耳に生暖かい感触が触れた。
耳たぶを唇で挟まれ、そして舐められたのだ。
さすがに悪戯の性質が悪いと思って密着した体を離した。
そして僕は驚いた。透の表情が、今まで見たことがないような真剣なものだったから。
ただ真剣なだけじゃない。僕を見つめるその瞳は、はっきりと欲情している。

どうして突然?そして何故僕に?
考えが混乱しているうちに、透の顔が近づいてきた。唇に生暖かい息がかかる。

ああ、キスされる――そう分かっているのに体は動かなかった。
軽く触れて、一度離れ、また重なる唇。
重なった透の唇は熱く、そして濡れていた。まるで舌なめずりでもして準備していたかのように。
それに気付いてゾクリと背筋が震える。僕は思わず媚びるような呻き声を漏らした。

すると透が強引ともいえる力強さで僕をソファーに押さえつけた。
抵抗する間もなくそのまま深く口付けられた。何度もキスを繰り返す透が信じられなかった。なのに、どこかで嬉しいと感じる自分もいた。

透に求められているという事実が、体の奥の情欲を湧き起こさせた。
だって、僕はずっと透のことが好きだったから。友情より深く、醜い感情で。
いつから感情がシフトチェンジしたのかはわからない。もしかしたら雑誌で彼のことを知った時からだったかも知れない。

息が上がる。醜く、激しく、透をもっともっとと求めて。
熱い唇が頬や耳を辿って、僕の性感が呼び覚まされる。雑誌で何度も見たあの色気のある唇が、今、僕を蹂躙しているんだ――。

「……紘人」

低く名を呼ばれ、はっと我に返った。

「透……ちょ……」

いけない、これ以上溺れたら引き返せなくなる。
このまま行為を続けたら透は絶対に後悔することになる。だって僕は女じゃない。僕達は男同士なんだ。
司狼をあんなにも拒絶した僕が、透と一時の過ちを犯してはいけない。いくら彼のことが好きなのだとしても。
……なのに、透に唇を塞がれたら僕はあっさりと陥落した。

「ん、んぅ……」

透の見た目よりもしっかりした肩に掴まりながら感じているような声を上げた。上げずにはいられなかった。
舌を絡めあうキスは気持ちが良くて、唾液に混じる煙草の苦味が僕の脳内を痺れさせた。
いつの間にか寝巻きのボタンがはずされていて透の固い手が素肌を撫でる。それだけでもう堪らない気持ちになった。

首筋や開いた胸元に透の唇が這う。強く吸われたり齧られたりして、僕は食べられているのだなと思った。
乳首を食まれると、声が止まらなくなった。媚びるように、甘えるように、感じていると透に伝わるように。

「あっ……あ……」

透はやけに手馴れていて、やはりたくさんこういう行為をしてきたんだなと思わせる余裕があった。それが悔しいのか妬ましいのか――情けなくも泣きそうになった。

「……紘人、きもちい?」
「わ、わかん、な……」

くすぐったさや腰にじんとくるような痺れは官能だろうか。わからない。もうなにもわからない。
ただ透が触れていることしか、感じられない。


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