11


僕はもう、蕩けるくらいにふわふわとした夢見心地でいた。首や肩に感じる咬み痕の痛みさえ愛情の証に思えた。
しかし、透の表情を見てはっと現実に引き戻される。それはいかにも後悔していると言わんばかりで、罪悪感の塊のようだった。

「俺……水、持ってくるね」
「と、おる……?」

事後の余韻で恍惚としている僕に対し、透が冷静に手早く後始末をする。
男は射精してしまえばそんなものだ。けれど僕のほうは達していなかったし、まだ快感の波に飲まれている最中だったせいで寂しく思った。
寝室を出ていってしまった透のうしろ姿を見送って、ごろりとうつぶせに転がる。敏感になっているペニスは、シーツに擦れた刺激でビクンと反応した。
できれば透の手でこれを慰めて欲しい。気持ちがあまりにも昂ぶりすぎていて、自分でする気になれなかった。

うっとりとした息を吐いたあと、ふとデジャヴに襲われた。
以前にもこんなことがあったような気がする。
それは初めて透に抱かれた夜のことだ。今日のように彼は突然、僕を貪るように抱いた。そしてそのあと僕の前から逃げるように消えたのだ。
今この状況は、あのときに似ていないか――。

僕は慌てて起き上がり、放り出されていた自分の下着を穿いた。
ローションや中に吐き出された精液による違和感は拭えなかったが、そんなことは気にしていられなかった。
まずは玄関を見に行こうとしたが、薄暗いキッチンに透の姿を見つけてほっと胸を撫で下ろす。
けれど、彼はひどく落ち込んでいて声をかけるのも躊躇われた。
そうは言っても僕たちは恋人同士だ。あのときとは違う。ここで遠慮していては以前の二の舞になりかねない。

「透」

名を呼ぶと、透が肩を跳ねさせた。振り返った彼は青い顔をして、いつもの明るい様子は微塵も感じられない。

「あ……紘人、体……その、大丈夫?」
「平気だ。でも……」
「――ごめん!マジでごめん……俺、ちょっと酒飲んで頭イっちゃってて……って言い訳だけど、でも、ひどいことしてごめん」

あまりアルコールの気配を感じられなかったが、酒に弱い透のことだからすぐに回ってしまったのかもしれない。

「あ、いや、……いいんだ、大丈夫だから」
「つか寝てて。い、痛いでしょ、色々……もしかしたらどこか傷になってるかもだし」

僕は自分のことよりも、いつもと違う彼のことが心配でならなかった。
視線を彷徨わせた透がずいぶんと不安定になっているように感じて、それを繋ぎ止めるように彼の手首を握り込んだ。

「……きみがまた、いなくなったらと、思って……」

同じことを考えていたのかもしれない。透の動揺が触れた部分から伝わってきた気がした。


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