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これで物品の受け渡しは済んだ。エリオットが入り口に戻ると、もうメグが待っていた。
彼女の肩掛け鞄から大きい本が少しはみ出している。エリオットも読んだことがある『精霊王の書』だ。

「すまない、待たせた」
「あっ、お、お帰りなさい……」
「行こうか」
「は、はい!」

エリオットはメグとギルドをあとにした。ギルドを出るとメグが小走りでついて来ながら聞いてくる。

「えと、それで……どこに、その……行くんですか?」
「ああ、そうだった。故郷の家族に首都の土産を贈りたいんだが、女性の好みそうなものを知っていたら教えて欲しい」
「お、女の人……ですか?」
「そうだ。母と、妹が三人いる」

妹が三人、と聞いてメグが驚きに目を丸くした。彼女はきょうだいが少ないのだろうか。

「そ、それじゃ……えと、最近人気の雑貨のお店が、あるので……そこで、いいです、か?」
「構わない。頼む」

エリオットがそう言うとメグがホッと胸を撫で下ろした。



メグに案内されたのは、ギルドから程近い場所で<暗黒通り>という名の大通りだった。
名前はおどろおどろしいが実際は多くの店と人で賑わっている活気のある商店通りだ。
エリオットは生前のティアンヌと一度来たことがあるが、その時とは様相が少し違っていて驚かされた。

メグのあとをついて行くと、ふと目に留まるものがあった。

(……ジン?)

そう思ったのは直感だ。ヒノン装束で彼と似た背格好の男が視界の端に映ったのだ。しかし男は黒髪で、ジンイェン特有の夕陽色とは違っていた。
男は一緒に歩いている露出の高い女楽士の細腰に手を回し、何かを話しながら歩いている。
エリオットが黒髪の男をじっと見送っていると、メグが不審そうに首を傾げた。

「……エリオットさん?」
「あっ、いや……すまない。なんでもない」

メグに返事をしてから顔を戻すと、男はもう人に紛れていなくなっていた。

気を取り直してメグの案内で連れて行かれたのは、最近出来たばかりといった新しい外見の店だった。
女性が好みそうな可愛らしい内装をしているので、エリオットが足を踏み入れるのはなかなか勇気が要った。

店内は当然のように女性ばかりだった。
小さい雑貨や髪飾りなど、普段魔術道具や書物しか相手していないエリオットにとってはかなり目がちかちかとした。おまけに店内の女性客にちらちらと見られて落ち着かない。
早く用事を済ませてしまいたかった。

「……メグ、どういうのが人気なんだ?」
「えっ?えっと……えっと、手鏡とか、髪飾りとか……」
「ふむ……」

正直に言って、どれも同じに見える。必死に妹たちがあれがいいこれがいいと騒いでいたものを思い出す。
結果、妹達には形と色がそれぞれ違う髪飾りと、母には花柄のブローチを選んだ。
地方にはこういった可愛らしいものが売っている店は少ないから、喜んでもらえるといいと思う。

支払いを済ませて店を出ようとしたところで、メグが髪留めピンを食い入るように見つめていたのに気付いた。
髪が短くなったから今までのようにおさげで纏められないので髪留めが必要なのかもしれない。
やけに真剣な顔で少し大人っぽい蝶の髪留めピンを選ぶと、彼女はそれを購入した。
そしてエリオットははたと気付く。こういうとき、男性が女性にプレゼントするのが礼儀なのではと。

気が利かない自分を恥じ、かといっていまさら彼女に買い直すのも無作法な気がして会計を終えたメグとそのまま店を出た。
しかし何かしないと落ち着かないエリオットは、とっさに妥協案を思いついた。

「……ええと、メグ、良かったら昼食を一緒にどうかな」
「えっ!?」
「今日の礼に、奢らせてくれ」
「えっと……えーと……」

二つ返事がもらえるかと思ったが、メグは忙しなく目線を逸らしながらもじもじと短い髪をいじった。

「あの……ごめんなさい、このあと、お、お友達と約束が……あるんです……」
「……そうなのか」
「ご、ごめんなさい……その……」
「いや謝ることはない。僕の方こそ時間を取らせて済まなかった」
「いいいいえ!いいんです!あのっ、お役に立てて……嬉しいです!」

メグはもうすぐ待ち合わせしているとのことで挨拶もそこそこに別れ、小走りに行ってしまった。
小さい彼女の背中を見送って、エリオットはため息をついた。

(……とりあえず、僕も昼飯を食べるかな)

その前に買った小物を実家に送らなければならないことを思い出し、まず書簡屋を探した。



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