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そんなことを話しているうちに、乗合馬車は首都の役所前に到着した。



ガランズは帝国の首都だけあって華やかだ。学校や図書館の多いジョレットとは全く雰囲気が異なる。
役所前にはオルキア最大派閥宗教の大聖堂があり、歴史ある建造物は観光名所にもなっているので特に人が多い。

魔法使ギルドはそこから三十分ほど歩いた場所にあるので、人の波を避けながら市街地を行く。
事前に地図で確認してあったおかげで迷いなく行けそうだった。
そもそも街にいる狩猟者らしい魔法使が皆その方向に向かっていたので、迷いようがなかった。

すたすたと歩く歩幅に追いつけないメグが人に埋もれてしまいそうになっていたので、エリオットは慌てて歩調を緩めた。
ジンイェンと並んで歩くような歩調になっていたことに気付いて苦笑する。彼といるときはむしろエリオットのほうが遅れるほどだったのだ。
メグの歩みに合わせてゆっくり行くと、徐々に魔法使ギルドのシンボルである三角屋根の塔が見えてきた。

ギルドに辿りつくと、まず門番の衛兵に止められた。しかし魔法使の証である指輪を見せるとあっさりと通行許可が下りた。
ということは魔術士以上でないとギルドに入れないのだとエリオットはひそかに得心した。魔法使協会でしか資格と称号を取得できないのはそこに理由がありそうだ。

たしかに狩猟者は命がけの仕事も多いのだから、やはりそれなりの力がないと許可できないのだろう。
組合と協会は全くの別組織だという良い証拠だ。



ギルド内部は、建物の見た目以上に広かった。空間拡張の魔術を使っているのかもしれない。精霊界を間借りする空間系の魔術は協会認定が必要な特殊な術だ。
エリオットも自宅前に出口を設定してある空間移動の魔術を取得しているが、使用制限が多いので普段はあまり使わない。

便利な反面世界の理を捻じ曲げてしまいかねない魔術の使用は、一般の人々が思っているより窮屈だ。
術の強さに比例してそれなりの対価を必要とする場合が多いので個人に階級を設け制限しているという具合なのだ。
もちろんギルドのような公の施設には平素お目にかかれないような高度で特殊な魔術がふんだんに使われているので、魔術研究が好きなエリオットはそれだけでも感心してしまう。

エリオットの隣でメグが書物貸し出しの窓口を目で探した。

「あ……じゃあ、わたしは、あっちで……」
「ああ。用が済んだらまたここで落ち合おう」

一時別れの挨拶をして、エリオットも自分の用事を済ませることにした。

(さて、僕はどこへ行けばいいのかな……)

館内は大きめの机がいくつも並んでおり、ひとつの机でひとつの案件をこなす仕組みになっているようだった。
机の上には三角錐の置物があり、『精霊』、『書物』、『道具』などの文字が書かれている。
エリオットはギルドの中をつい物珍しそうに見渡した。こんなことがなければ来ることもなかった場所だ。
荷物には厳重に封印をかけているからトラブルに見舞われることもないだろうが、それらの術も絶対ではないので早く譲渡してしまいたい。

広い館内をしばらくうろつくと、『案内』の文字を見つけた。
受付には眠そうな半眼の少年が座っていた。丈の短い黒いケープを着ているところを見ると、それが職員の制服のようだ。

「魔導士様、どんなご用件でしょうか?」
「ジョレットの斡旋所のランゼットから、魔術道具を預かってきた」
「承知しました。あちらの方へお願いします」

少年が差す方を見ると、『鑑定』の文字が書かれている三角錐の置物が置いてある机があった。
礼を言ってそちらへ行くと、老女の魔法使がエリオットの荷物を受け取ってくれた。
それらを一つ一つ取り出してはリストと照合しながら片眼鏡を覗き込み丁寧に鑑定していく。

「……ようございましょ。どれも間違いございません。対価はあちらで受け取ってくださいまし、魔導士様」

皺だらけの口を動かしてもごもごと老女が言う。
彼女はおそらく元狩猟者なのだろう。二級魔導士の指輪をしているが、両手に牙で噛まれたような痛々しい傷跡がある。

そして老女に案内された先に向かうと、『支払』の文字があった。
そこではやはり少年と同じ黒のケープを纏い、眼鏡をかけた青年が机の向こうに座っていた。
彼が他の魔法使の対応をしていたので少しの間エリオットは待った。

「……またのお越しを、魔術士様。――お待たせしました、魔導士様」
「鑑定の対価をここで受け取るよう言われてきたんだが」
「承知しております。こちらをお受け取りください」

眼鏡の青年が皮袋にずっしりと入った金貨を机の上に乗せる。どういう仕組みかは分からないが、老女からすでに通達されていたようだ。
金貨袋は依頼人――エリオットの場合はランゼット――にしか開けられない鍵の魔法がかかっていた。

エリオットはそれを受け取り鞄の中に慎重にしまう。
これをランゼットに渡して依頼遂行完了となる。


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