首都・ガランズへ
休暇最終日――。
まるで休みになっていないが、仕方なくエリオットは遅い朝食のあと家を出た。
今日はオルキア帝国の首都・ガランズまで行かなければならない。
ジョレットと隣接しているとはいえ、歩いていくにはかなり距離があるので馬車を利用することにする。
フェノーザ校の近くにある馬車停留所から首都直行便が出ているのだ。
まずは斡旋所に寄ってランゼットから品物を預かり、鞄に詰める。それらに封印の術をかけ続けるために愛用の杖を持ち、停留所に行った。
エリオットが停留所で次の便を待っていると、背後から声をかけられた。
「あの……エリオットさん……?」
「? ……ああ、メグ」
褐色肌の小柄な魔法使、メグだった。
ロッカニア地下遺跡の件以来、二日置いての再会だった。つい先日のことなのに遠い昔のように感じる。
「先日は世話になったな。……あ、髪」
相変わらずぶかぶかの帽子を被っているが、彼女は長かった銀髪を切り首周りがすっきりとしていた。
「あ……焦げちゃったんで……その、思い切って切っちゃいました。……どうです、か?」
「うん、似合うよ」
エリオットがそう言うとメグは表情を明るくした。頬を染め上げてもじもじとしている。今はないおさげをいじるような仕草は相変わらずだ。
「えと……エリオットさんも、ガランズに……?」
「ああ、ちょっと野暮用で」
斡旋所での経緯を話すと、メグは驚いていた。
「きみもガランズに行くのか?」
「あ、はい……ちょうど、ギルドに用があって……その……」
「そうか。なら目的地は一緒だな」
「は、は、はい……えと、ご一緒しても、いいです、か……?」
「むしろ案内して欲しいくらいだ」
エリオットが苦笑すると、メグが嬉しそうに笑った。屈託ないその笑顔が可愛らしい。
ほどなくして乗合馬車が到着し、他の乗客に混じってエリオットとメグは乗り込んだ。
「……今日は、その、お体、よさそうですね……」
「あ、ああ。おかげさまで」
「?」
ジンイェンと魔力交合を行ったことを不意に思い出し、エリオットは目を逸らして耳を赤くした。
そもそもメグがジンイェンに魔力供給の魔法使同士以外の方法を仄めかしたせいであのようなことになったのだ。
結果的には良かったといえるが、さすがに照れ臭い。
「そ、そういえばメグは今日はギルドに何の用で行くんだ?」
「あ、は、はい。精霊王の、お勉強をしようと、思いましてっ……」
メグが言うには、一般の図書館などには置いていない精霊王に関する書物を借りに行くようだ。
エリオットは魔術学校にあるものを読んだが、魔法使ギルドでも貸し出しを行っているらしい。
「そうか。熱心だな」
「は、はい、エリオットさんのおかげです……」
魔導士になって初めてその書物を読むことができるのだが、メグは今まで契約に消極的だったらしい。
エリオットの盟友の印で魔術を行使して以来、契約に前向きになったとのことだ。
「でも、わたし、まだ初級ですし……あ、頭も悪いし、全然まだまだなんですけど……」
「一時的に貸したとはいえあれだけ使えたんだ。素質は十分だろう」
「そ……そう言ってもらえると、嬉しい、です……」
ふにゃりとメグが幼く笑う。
エリオットは実家にいる三人の妹を思い出した。彼女達もメグのように兄であるエリオットを頼り、慕ってくれたものだ。
そういえば長い間故郷に帰っていないなと思い出し、首都に着いたら妹と母のためになにか流行の贈り物でも買おうと決めた。
女性が好みそうなものを知らないエリオットは、ふとメグを見つめた。
「そうだ、メグ。ギルドのあと少し時間はあるか?」
「ふぇっ?え、あ、はい、大丈夫です……けど」
「ちょっと付き合って欲しいんだが、いいか?」
「ははははい!わ、わたしでよければ……!」
エリオットの提案に目を白黒させながらメグが答えた。
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