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ランゼットに促されて建物奥の事務所に連れて行かれる。
リストと現物を確認したが、やはり第一級危険品の道具ばかりだった。

昔の大戦時に使われたと思しき強力な力を持った武器や魔術道具が頻繁に斡旋所に持ち込まれるらしい。
これらは狩猟者が狩りの成果として持ち込んだ品々で、手に余り取り扱いに困って集められたものなのだという。
そういった品々は各ギルドに委託され専門家の下で適切な処理を施される。問題がなければ定期的に競りが行われ、それらを上手く使える者に託されるそうだ。

なかでも魔法使ギルドだけは扱いが難しく、魔法使が多いこのオルキア内の斡旋所でも顔パスとはいかないようだ。
そしてその都度狩猟者の魔法使に仕事として依頼しているが、今回はエリオットにその白羽の矢が立ったということだ。
今日はすでに夕方にさしかかっていたので、首都に赴くのは明日になる。

エリオットは陽の落ちかけた空を見て、ジンイェンのあの鮮やかな頭髪を思い出した。
彼は今頃どうしてるだろうか――。
そしてエリオットも慌しいことに、明日には魔法使ギルドに行かなければならない。
魔法使ギルドなど一度も行った事がない場所だ。狩猟者のための施設だから当然なのだけれど。

狩猟者それぞれの職業を細やかにサポートする場所、としか知らない。
斡旋所とは違う専門的な窓口になっていることだけはわかるが、その実態は想像もつかない。
エリオットのような一般の魔法使はだいたい協会を利用するからだ。これも首都に本部があり、主に魔法使の資格申請やトラブルなどに対応してくれる。



――魔法使は大きく分けて五つの階級が設けられている。

そのなかでさらに初級から一級まで区分されていて、それを判別するのは指輪の位置と色だ。
一番下級の『魔法士』は指輪はない。基礎魔法を覚え始めた者がこれにあたる。
そしてその上位の『魔術士』は銅の指輪、その上の『魔導士』は銀の指輪、その上は『魔道師』で金の指輪。

指輪を嵌める位置も決まっており、小指は初級の証で、級が上がるごとに薬指、中指、人差し指と移動する。
ただし右手か左手かはどちらでも構わない。利き手に嵌める者もいればそうではない者もいる。エリオットは前者だ。
例外は魔法使最高位の『賢人』で、両手の親指に金の指輪を嵌める。賢人は代々三人と決まっており、現在その席は全て埋まっている。

そうして魔法使の能力は目に見えて判別できる形になっているのだ。


そのなかでも魔導士とは、精霊王と契約する力と資格を持つ者に与えられる称号だ。
ひとつの精霊王と契約が完了すれば一級魔導士の称号を得られる。逆に言えば一度失敗すれば永久に二級魔導士止まりで、魔導士はそういう者が多い。
魔導士の二級と一級には大きな隔たりがある。だからこそ魔導士は精霊王の契約には慎重になるし、一級魔導士以上の者は敬われる。

一級魔導士になった先は、精霊王とひとつ契約するごとに級が上がる仕組みになっている。
ベヌートの一件で雷の精霊王と契約したエリオットはすでに、魔導士の上である初級魔道師の資格を有している。

魔法使協会に申請すればすぐに称号を得られるとは思うが、称号取得のためにはその経緯を書類に起こし、さらにイレギュラーな契約をしてしまった精霊王と改めて交信しなければならない。
もしかすると、魔法陣を使い回しされた炎の精霊王も怒っているかもしれない。そのあたりのことを含めて一度フェリクスに相談するべきだろう。


どうにも面倒なことが多いな、とエリオットは嘆息した。



自宅に帰りつくと一人だったことを思い出し、さらに気分が落ち込んだ。
おかしな輩に絡まれたり、面倒な頼まれごとをしたりと色々あったこんな時だからこそ、無性にジンイェンの顔が見たかった。
彼は今日の夕飯まで用意して行ってくれたようで、食糧貯蔵庫には冷めても美味しい味の濃い料理が置いてあった。
固いパンとともにそれをもそもそと食べ、エリオットは夜も浅いうちにベッドに入り込んだ。

「……ジン……」

呼んでも返答はない。
エリオットはここ数日の疲れもあり、すぐに眠りに落ちた。


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