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――アルボス族のエムカルだった。
彼は釣りあがった金色の瞳でボードンをきつく睨み、彼の肩に留まった猛禽鳥も鋭く威嚇している。

「うっ……」

背は低いが筋肉質でどっしりとしたエムカルは威圧感がある。濃淡のある緑の頭髪やその外見も相俟って森深くの大樹を思わせた。

「……クソッ!」

傍若無人なボードンの態度に周囲の目も冷たく、ボードンはこの場は分が悪いと察し悪態をついて斡旋所を出て行った。
エリオットは集めかけた精霊を解放して安堵の息を吐いた。

「すまない、エムカル」
「……ここで魔術をぶっ放されても困るからな」
「…………」
「見かけによらずあんた結構血の気が多いな」

憎まれ口を叩かれて苦笑する。第一印象で苦手意識のあったエムカルだが、今日の彼は突っかかってくる気配がなかった。

「いや、でも助かった。あんなのに絡まれたのは初めてでどうしていいかわからなかったから……」
「そうか」

ぷい、とエムカルが横を向く。エリオットと仲良くする気は依然なさそうだ。
エリオットの方も彼と友人になる義務もない。それを分かっているかのように、エムカルはさっさとエリオットから離れていった。
そうしていると、騒動は収まったとみた周囲の人間もそれぞれの用事に戻っていった。

ようやく家に帰れると思ったところで、ポンと肩を叩かれた。

「いらっしゃい」

そう言ったのは壮年の太った男だった。腹は出ているが全体的に固太りで、頭にちょこんと小さな帽子を乗せている。
口髭を蓄えた男は人の良さそうな笑みを浮かべた。

「すまなかったな、あいつ……ボードンは問題ばっか起こすから出禁にしたはずだったんだが」
「……あなたは?」
「おや、あんた狩猟者じゃなかったのか。おれはこの斡旋所の総責任者、ランゼットだ。皆はオヤジって呼ぶがな」

目尻の皺を深めてランゼットが笑う。人の警戒心を解く豪快で気持ちの良い笑みだ。

「騒ぎにしてすまなかった」
「構わんよ。こんなことは日常茶飯事だ」
「そうか。では、失礼」
「おっとっと……ちょっと待った!あんたに仕事を依頼したいんだ」
「仕事?」

エリオットは目を見開いた。狩猟者でない自分に何の用かと訝しげにランゼットを見る。

「つっても魔獣狩りじゃないぞ。あんた、魔法使なんだよな?」
「そうだが……」
「魔法使ギルドへ届け物をして欲しい」
「……?」

狩猟者のギルドは総括ギルドの他に職業ごとに設立されていて、魔法使ギルドはたしか首都ガランズにあったはずだ、とエリオットが思い出しているとランゼットが肩を竦めた。

「あいつら気難しくてな……魔法使じゃないと施設に入れねえんだ」
「ならば他の魔法使を当たってくれ。僕はただの一般人だ」
「報酬は、腕輪の弁済金」
「!」
「受けてくれるなら今この場でチャラにしてやる」

魅力的な誘いだ。決して金がないわけではないが余計な出費ができるほど裕福というわけでもないので、届け物だけでそれがなくなるのならありがたい。

「……明日になるが……それでも良ければ」
「構わんよ。ただ危険な魔術道具が多いから、取り扱いには気をつけて欲しい」
「了解した」

危険な魔術道具は魔導士であるエリオットは何度も扱っている。その恐ろしさは重々承知しているので神妙に頷いた。

「よし、今リストを出すから確認してくれ」
「ああ」


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