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列はどんどん進み、しばらくしてエリオットの順番がくる。
笑顔が可愛らしい少女がエリオットを迎えてくれた。豊満な胸元を強調した衣服の少女はふわりと広がる金髪とばら色の唇が魅惑的だ。

「いらっしゃいませ、どんなご用件でしょうか?」
「借りた備品の損失についてだが」
「はい、かしこまりました。備品名と貸し出し番号をお願いします」
「ば、番号?」

困った。そんなものがあるとは知らなかった。ここに来る前にベリアーノに声をかけるべきだったのだ。
エリオットがうろたえていると、少女は可愛らしくこてんと首を傾げた。

「えーと……ば、番号は分からないんだが、狩猟者の腕輪で、一昨日ベリアーノという剣士から受け取ったんだが……」
「少々お待ちください」

少女が後ろの棚から帳簿を取り出し、ぱらぱらとめくっていく。

「ああはい、ありました。ベリアーノ・ブライアン様。狩猟者の腕輪ひとつ、貸し出しております。持ち出し先はロッカニア地下遺跡。貸し出し期限は明日までですね」
「それなんだが、狩りの途中で無くしてしまって……」
「はい、狩猟中の紛失ですね。弁済金はオルキア金貨20枚、大陸紙幣でしたら本日53090バインとなっております」

エリオットは面食らった。結構な額だ。大陸紙幣は持っていないから金貨で払うしかないが、財布の中は若干寂しい。

「すまない、今持ち合わせがないんだが……」
「かしこまりました。支払い期限は明日中になります。では、次の方どうぞ!」

事務的に少女が言ったので、エリオットはカウンターの前からどくしかなかった。
金貨20枚、家にあっただろうか。銀行へ寄って貯金を下ろしてきた方が無難か――そんなことを考えながら出入り口のドアに向かうと、突然前を塞がれた。

エリオットよりも頭ひとつ分背が高く腰には手斧をぶら下げており、側頭部を刈り上げた青髪の筋骨隆々とした男だ。頬に引き攣れた大きな傷跡がついている。

「……何か?」

ニヤニヤと笑う男の視線に嫌なものを感じたので、エリオットは無愛想に言った。

「さっき聞こえたんだけどよー。お前、一昨日のロッカニア参加者なんだよな?」
「そうだが」
「お前見たとこ魔法使だろ?ベヌートを倒した凄腕ってお前のことだよな?」
「…………」

エリオットは口をつぐんだ。傷の男と不穏な雰囲気になったのを察した周囲が、遠巻きに見ている。

「いやーオレのパーティの魔法使がよ?三日前逃げちまったんだよなぁ。だからお前、オレの仲間になれよ」
「断る。……話はそれだけか?そこをどいてくれ」

冷たく言い放つエリオットに傷の男はなおもニヤニヤと笑い舌なめずりした。

「おーこえーこえー!ならよぉ、お前、オレのオンナになれよ。オメー美人だし、アッチの具合も良さそうだ。昇天させてやるぜぇ?」
「……下衆だな、デカブツ」
「ああん!?」

傷の男がこめかみに青筋を浮かべた。ここまで侮辱されてさすがのエリオットも吐き気がした。

「うるぁ今なんつったァ!?下手に出りゃお高く留まりやがって!おいテメー『頬傷のボードン』様を知らねえのか!?」

狩猟者の間ではどうか知らないが、エリオットは全く知らない人物だ。巻き舌で唾を飛ばしながらがなるボードンを冷たく見据えた。

「知らないな。用が済んだなら通してくれ」
「テッメ……!」

ボードンに胸倉を掴まれ、エリオットは反射的に指先を擦った。
精霊界表層はこの世界と重なっていて力が弱く害のない精霊が絶えず漂っている。
それらを集めてこの男に火魔法を食らわせることくらいはエリオットにとっては杖なしでも造作もないことだ。
バチ、とエリオットの指先で火花が弾ける。

しかしその前に、エリオットを掴むボードンの手を褐色の大きな手が押し留めた。


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