斡旋所



エリオットは午後になってから街に出かけることにした。向かう先は狩猟者の斡旋所だ。

グランからの贈り物をローブから探したときに気付いたのだが、ロッカニア地下遺跡でのあの激しい戦いの中、装飾品の類は魔法使の指輪以外無くなっていた。
魔法使の指輪は特殊な魔術がかかっているので基本的に外れない仕組みになっているから、魔法使はよほどのことがない限り指輪を手放すことはない。
問題はその他で、エリオットの寡夫の耳飾りは予備があるからいいとしても、ギルドから借りた狩猟者の腕輪が無くなっていたのは痛い。

(……たしか弁償だと言っていたな)

もともとエリオットの腕に合っていなかったのだから無くして当然と言えなくもないが。
とにかく弁償するにしろギルドに報告はしなければならない。
市街地図を広げ場所を確認し、エリオットは財布だけを懐に入れて斡旋所へと向かった。



狩猟者の斡旋所は、ジョレットの街の入り口大門近くにあった。街の東南に位置し国立図書館方面へ向かう形になる。
細かい場所は現地についてから確認すればいいので、すぐに出かける。
屋敷から歩くと結構な距離があるが、賑わっている街を散策しながらだと気が紛れるように思えた。
年中気候が比較的安定している東部は今日もいい天気だった。

とりあえず国立図書館に到着して、さてここからどうやって行くのだったかと考えていると、ふと、図書館の建物を見て思い出した。

(そういえば、ジンとはここで初めて出会ったんだったな……)

あの時は何がなんだか分からず、慌てふためいたものだ。
そこからジンイェンとの付き合いが始まったのだ。実は出会ってからまだ一ヶ月そこそこしか経っていないことに気付いて驚く。

(……たしかに、彼の全部を分かろうとしても無理だな)

思わず苦笑する。どうやら自分は焦りすぎていたようだとエリオットは己を戒めた。
斡旋所の場所案内の看板が見え、思考を切り替える。とにかく用事を早く済ませてしまわなければ。

それは、赤煉瓦造りのなかなか立派な建物だった。
<組合依頼斡旋所>――古びた看板にはそう書かれていた。その下にはさらに新しい看板が継ぎ足されており<お困りごとのご相談はこちらへ!>と書いてある。
ここは、狩猟者が仕事依頼を受ける場所だと聞いている。他にも馬車などの備品の貸し出しや宿屋の案内など行っており、狩猟者の窓口らしい。全てジンイェンの受け売りだが。

通り過ぎることはあったが入るのは初めてで、エリオットは入り口で少し迷っていた。
そうしてると全身汚れている仕事帰りの者やこれから依頼を受けるつもりらしい気負った者が続々と入っていった。
彼らは入り口で二の足を踏んでいるエリオットをジロジロと見ては建物に吸い込まれていく。
エリオットはようやく決意し、木のドアを開けた。



中は吹き抜けになっており、開放感のある建物内は多くの人で賑わっていた。
酒場のような喧騒ではなく、人々が真剣に相談し合っていたり壁に多く張り出された依頼の紙を熱心に見つめていたりと様々だ。

(なるほど、狩猟者はあの紙の中から仕事を選ぶのか――)

見れば人気の仕事はすぐなくなるらしく、人気のなさそうな古い紙になればなるほど隅に追いやられていた。
きょろきょろとあたりを見回すと、受付窓口らしきカウンターを見つけ、エリオットは近づいていった。

列を作って並ぶ狩猟者の後ろにつく。すぐ前に並んでいる剣士らしき男がちらちらと窺ってきたが、声をかけてくるわけでもなく知らない顔だったのでエリオットは無視した。


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