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仲間たちの喧騒が遠い。
早く戻らなくてはと思うのに繋がった手は離れる気配がなかった。
「……ジン」
「…………」
「ジン、放してくれ」
「……なんで、俺に言ってくれなかったの」
「は?何を?」
ジンイェンが苛立ちを隠すことなく刺々しい言葉をぶつけてくる。
言われている意味を図りかねてエリオットは秀麗な眉を顰めた。
「ずっと具合、悪かったんでしょ」
「それは……。でも、メグに魔力をわけてもらったから多少は平気だ」
「俺じゃダメなの?」
「…………」
魔力供給は魔法使同士だから通じる術法だ。エリオットは少し考えてからゆるりと首を振った。
「……ジンじゃ無理だ」
「なんで」
「……だいたい、ただ魔力を分けてもらってただけなのにどうしてきみは来たんだ」
「コソコソ二人で抜け出して様子がおかしかったし……変な声が聞こえたから」
拗ねたようにジンイェンが唇を尖らせる。
彼が想像しているような色っぽいことは全くないのだが、少し後ろめたくてエリオットも目を逸らした。
魔力供給は、だから、人前で行うようなものではないのだ。
「……おかしな邪推はよしてくれ」
「俺は、アンタのことが心配で……もっと俺に頼ってほしくて」
「…………」
ジンイェンの言葉にエリオットの胸が岩を乗せられたかのように苦しくなる。
これ以上彼に依存させて、そしてどうするつもりなのだろう。
「また無理したんでしょ?」
「……必要だったから」
「だからって」
「やらなきゃ、みんなやられてた」
「……っ、だから、どうしてアンタはそう……!」
ジンイェンはエリオットを強く抱き寄せた。
力いっぱい抱きしめられ、エリオットの息が詰まる。
「ジン……っ」
「エリオット……!」
「苦しい、ジン、離せ……」
エリオットが胸を叩いても腕を突っ張ってもジンイェンは抱きしめる腕を緩めない。それは凶暴なほど力強い腕だった。
「離さない」
「ジン、ふざけ、……んっ」
ジンイェンはエリオットの唇を荒々しく塞いだ。合わさった唇の隙間から舌を挿入し、エリオットの舌を絡め取る。
エリオットは逃げようとしたが、掻き抱くように頭を固定されてそれは叶わなかった。
唇を吸われ、舌を巧みに絡められる。あまりの荒っぽい口付けにエリオットの息が詰まった。
上顎を舌でくすぐられたと思うと口内を強引に貪られる。飲み込みきれない唾液が顎を伝った。
「エリオット……」
どれくらいの間、深く口付けられただろうか――。
唇を合わせながらジンイェンがエリオットの名を熱っぽく囁いた。
エリオットの体の力が次第に抜けてゆく。
だらりと腕を下ろし膝から崩れ落ちた。
「……ジ、ン……」
そうして、メグに分け与えてもらったはずの魔力が抜け落ちていく感覚を最後に、エリオットはジンイェンの腕の中で気を失った。
第二章 END
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