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ジルタイト石から多少魔力を取り戻したが、それでも今日一日で魔力を使いすぎたエリオットはかなり疲れ果てていて歩くことすら骨が折れる有様だ。
メグが頬を染めてもじもじとおさげを指先でいじりながらエリオットの返答を待っている。

「……じゃあ、少しだけ――頼む」
「えっと、えっと……あの、じゃあそこの……建物の陰で」
「ああ」

魔法使同士の魔力供給の術は、魔法使だけしか知らない術法だ。他に好んで吹聴するものではない。
狩猟者の間では頻繁に行われるのかもしれないが、エリオットは講義で実演する以外ではやったことがない。
人一倍恥ずかしがり屋のメグは人目に晒されるのを厭い、崩れかけた遺跡の柱の陰を指差した。

魔力を分け与えるには体の一部を接触させないとならない。
男性と手を繋ぐところを見られるのは、女性として恥ずかしいのだと察してエリオットも了承した。
仲間たちが戦闘の傷を癒しながら大量の鉱石をかき集めたり分配の相談をしている今が好機だろう。
エリオットとメグは、人目を避けて建物の陰に滑り込んだ。

「あの……じゃあ手を……」
「……ん」

エリオットは差し出されたメグの小さい両手を握った。火傷はすっかりなくなっていて滑らかできれいな褐色の肌だった。
エリオットの冷たい手が触れた瞬間、メグが体を跳ねさせた。

「ひゃっ」
「あ……すまない」
「いいい、いえ!じゃあ……その、始めますね……」

メグが深呼吸をして、集中する。握り合った手に魔力の光が集まった。
じんわりとあたたかい魔力がエリオットに流れ込んでくる。
術者の血を混ぜることは禁忌だが、精力や生命力である魔力は共有しても全くデメリットはない。

エリオットに活力が戻ってきて頬にほんのりと赤みが差す。

「あの、エリオット、さ……んっ……」
「…………」
「そんな、ダメです……それ以上、したら……あっ……」

魔力をどんどん吸われてメグが息を上げる。
エリオット自身、もうやめないと、でももっと欲しい、とせめぎあっていた。

この魔力供給の術は一種の快楽を発生させる。
あまり深入りしてしまうと中毒になりかねない。ジルタイト石と同じで、効果は紙一重なのだ。

「エ、エリオット、さ……」
「……!」


――突然、繋がった魔力が切り離された。


エリオットの手を、いつの間に来たのかジンイェンが強く握り締めていた。
ジンイェンはベヌの血で汚れた服をすっかり脱ぎ去り、生成りのシャツと黒の下衣を着ていた。誰かに借りたのだろう。
細身だが筋肉質の体がより強調され、いつものひらひらとした服のイメージと全く印象が違って見える。

「二人とも、なに、してるの?」
「きゃっ……!」

笑顔のジンイェンが二人に詰め寄る。しかし目が全く笑っていなかった。
予想外の急な介入に驚いたエリオットは、しどろもどろに説明の言葉を紡ぐ。

「……いや、その、メグに魔力を分けてもらってて……」
「そう、そうなんです!……わ、わたしの魔力でも、エリオットさんの力に、なれるかなって……」
「……ふーん……」

ジンイェンが目を細めて真偽を探るように首を傾げる。
何故かはわからないが静かに怒っている様子の彼にエリオットは怯んだ。

「……で、魔力は戻ったの?」
「あ、ああ。助かった、メグ」
「いえ、でも……ほんのちょっとで、ごめんなさい……エリオットさん、大きくって……」

ポッとメグの頬が染まる。しかし言葉が足りないことに気付いたメグが、慌ててジンイェンに弁明する。

「あ、そ、その、エリオットさんの魔力の容量がわたしなんかと違ってすごく大きくて……あの、そういう意味で!」
「へぇ?」

ジンイェンの爪がエリオットの手に食い込む。あまりに強く握りこまれて、エリオットもいささか腹が立った。

「――ジン、痛い」
「……ああごめんね?」

ジンイェンの力が少し緩むが、手を離す気はないようだった。

「……メグ、ありがとう。おかげでちゃんと帰れそうだ」
「いえ、あのっ……お役に立ててよかったです……」

エリオットの労うような柔らかい微笑みに、メグがさらに真っ赤になりながら焦げたおさげを振る。
そして恥らうように頬を手で押さえて彼女は小走りに逃げていった。

メグの姿がすっかり見えなくなってもジンイェンは手を離さず、むしろ握る力を強めた。



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