魔力供給



グランに肩を借りながら、エリオットは地下遺跡を脱出した。

外はもう薄暗くなり始めており、あと一時間もすれば陽が落ちるところまできていた。
撤退前にマッジがベヌートの溜め込んでいた鉱石と魔石の貯蔵庫を見つけたらしく、体力の余っている者は喜び勇んで運び出している。
ジンイェンは致命傷はないもののベヌートの血を浴びすぎたということで、アニタから解毒薬をもらっていた。

グランがエリオットを遺跡の崩れた石場に座らせ、一息ついた。

「……よっ、と……この辺でいいか?」
「ああ、助かったグラン」
「どういたしまして」

グランが明るく笑うのでエリオットもつられて微笑んだ。

「……ま、助かったってのは俺のほうかもな」
「え?」
「俺さ……ちょっと探してる石があって。貴重な鉱石だから、もしかしたらベヌートのねぐらにあるかもしれないんだ」

それ目当てにこの仕事に参加したのだと猫のような瞳を細める。

「だから……えっと、あんた名前は?」
「エリオットだ」
「そか。エリオット、ありがとう。お疲れさん」

グランが肩をポンポンと気安く叩く。そんなしぐさも好ましかった。
そうして彼はあっという間に遺跡の中へ取って返した。屑石と鉱石を見分ける仕事に戻ったのだろう。
彼の探し物が見つかればいいと、エリオットは思った。

「……あの……エリオットさん……」

入れ替わるように、メグがエリオットに声をかけた。
彼女の美しい銀髪のおさげの先がちりちりに焦げている。全身煤だらけでひどい有様だが、彼女はどこか誇らしげだ。

「ああ、メグ。火傷はどうだ?」
「はい、ローザロッテさんに治してもらったので、もう、すっかり……」
「そうか。……すまない、きみにも無理をさせた」

緊急時とはいえ、メグに無理を強いたことにエリオットは罪悪感を覚えた。
しかしメグは大げさに首を振って、彼女にしては珍しい張りのある声を上げた。

「い、いえ!精霊王の力を貸してもらって、すごくいい経験になりました……!」
「初級とはいえ魔導士の資格を持つきみなら、できると思ったから」
「はい……あの、ありがとうございます……炎の精霊ちゃんを貸してくれて……」
「せ、精霊ちゃん?」
「はい!すっごくかわいいワンちゃんでしたっ……!」
「ふはっ」

青の大きい瞳をきらきらと輝かせながらメグが語る。
精霊王の眷属をワンちゃん呼ばわりとは、彼女も中々肝が据わっている。エリオットは笑うのを堪えきれず肩を震わせた。

「はは、きみは炎の精霊と相性がいいのかもしれないな」
「そ、そうですか?わ……わたし、炎の精霊王と契約できるように、頑張ります……!」
「そうだな。頑張って」
「あの……雷の精霊王さんもすごく、きれいでした……」
「……そうか。僕は無我夢中で王の姿を良く見られなかったんだが――」

鳥、とだけ覚えている。
どうやって契約できたのか正直なところ記憶がおぼろげで、まさに奇跡としかいいようがない。

「それで、あの……エリオットさん」

青い顔をしているエリオットを見かねたのか、メグがこっそりと耳打ちをしてきた。

「あの……わたしの魔力、少し分けましょうか……?」
「……!」




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