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「や、や……った……」

メグが涙を流しながら立ちすくむ。
エリオットはそこで限界が来てその場に膝をついて崩れ落ちた。

「エ、エリオットさん……!」

杖に縋りつきなんとか体を支えているエリオットを、メグが両手で支える。彼女のその手は肘まで真っ黒に焼け焦げていた。

「僕、は、大丈、夫……」
「でも、でも……」
「あいつは、ベヌート、は……?」
「た、倒しました……!エリオットさんが……!」
「そ、か……」

これで安心だと一息ついたそのとき、エリオットは背後に獣臭さを感じた。

「え……?」

興奮した様子のベヌの群れが、そこにいた。
数が多い。十、二十……否、後からどんどん増えている。
エリオットとメグがいる近くの壁に横穴を掘って来たベヌだった。

「う、そ……」

ベヌートの死に誘発されたのか、ひどく好戦的にがちがちと牙を鳴らしている。
間の悪いことに精霊王との契約で、エリオットの魔力は底をついていた。
もう、制圧する術がない。
ベヌの爪がへたりこむエリオットに向かって振り下ろされ――。


「エリオット!!!」


風がエリオットの側を駆け抜ける。黒い影が目の前を通っていった。
――ジンイェンだ。

ジンイェンの小刀が爪を振り下ろそうとしていたベヌの喉元を切り裂く。
断末魔もなくベヌは倒れた。

両手に対の小刀を持ったジンイェンは続けて、その隣のベヌを背後から腕を回し喉を裂いた。
新たな敵を爪の餌食にしようとベヌたちが殺到するが、縦横無尽に繰り出される爪の斬撃を避けながらジンイェンは一体一体仕留めていった。

後ろからの斬撃を紙一重でかわし、体を低くして相打ちさせ、ベヌの足元をすり抜けて喉を裂いた。
片手の刃を振り下ろしてベヌの尖った鼻を切り落とし、逆の手の刃で隣のベヌの心臓を突く。素早く、確実に仕留めていく。それはまるで舞を舞っているようだった。

その動きはエリオットの目では追いきれず、ただ黒い影が動くたびにベヌが血を噴き出して次々倒れていくようにしか見えなかった。
ジンイェンはベヌの血で全身紫色に濡れた。それでもかまわず、ベヌの喉元を、心臓を、突き、静かに切り裂いていった。


ジンイェンの強さは圧倒的だった。
しかし数が多すぎる。彼一人ではとても耐えられない。


そのうちにベヌの爪がジンイェンの脇腹を掠めた。致命傷ではないが血が滲んでいる。動きが少し鈍った彼にベヌの強襲が殺到する。
エリオットは彼の名を叫びたくても、恐怖で声が出なかった。



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