精霊王
◇
一瞬で、展開されていた巨大な魔法陣が消え去った。
それを悟ったメグは、背後のエリオットを振り返った。
他の仲間も皆エリオットを見やる。ジンイェンも、遠くにいる彼に目を凝らした。
エリオットはその場に倒れ込み、ぴくりとも動かない。
「エリオット……さん……?」
メグが小さく呼ぶ。メグの額に浮かんだ精霊王の紋章が徐々に薄くなった。
盟友の印が、消えていく。
精霊王の力が失われていく――。
「……全員やつから離れろ!!!」
ジンイェンが叫んだ。
わけもわからず皆がベヌートから距離をとったその瞬間。――青い閃光が疾走った。
エリオットの元から放たれた閃光は、ベヌートの足元を駆け抜けた。
「ギャヒッ!!?」
ベヌートがブルルッと震えて一瞬動きを止める。
全員があっけに取られながらエリオットの方を見た。
エリオットはゆっくりと立ち上がった。
その形の良い額に、雷の精霊王の青白い紋章が浮かんでいる。
そして彼の周囲にはバチバチと激しい火花が舞っていた。
(……あれが、雷の精霊王)
メグは知らず涙を流した。その美しさに、そして神々しさに。
おそらく魔法使以外にはおびただしく火花が散っているように見えるだろう。
しかしメグの目には、その火花は鳥に見えた。
精霊王の眷属の鳥の群れ、そしてその中心には優美な翼を広げた大きな鳥――。
エリオットが荒く呼吸しながら、鼻血をぬぐう。その血に鳥たちは喜び興奮していた。
バチバチと激しく火花が炸裂し、遠くから眺めている皆は恐れて悲鳴を上げた。
しかしその火花は、ベヌート以外の者には戯れるのかのような優しい火花だった。
エリオットが前を真っ直ぐと見据え、毅然と杖を振り下ろす。
すると精霊王の眷属がベヌートへ向かって飛んでいった。
おびただしい数の鳥たちがものすごいスピードでベヌートの体を貫く。
「ギャァァァオウ!!!」
ベヌートが苦痛の咆哮を上げる。穴全体がまたびりびりと震えた。
雷はベヌートの毛皮ではなく内臓を焼ききったのだ。
エリオットが再び杖を振ると、精霊王もそれに合わせてベヌートを雷の力で貫いた。
「ゴギャァァァァァァ!!ガァァァウウウウウ!!」
毛皮に覆われた体中の穴と言う穴から血が垂れた。流れ出した血液はじゅうじゅうと蒸気を上げている。血が体内で沸騰しているのだろう。
毒の血が撒き散らされ、仲間達は毒の雨を被らないよう逃げ惑った。
もはやベヌートは大爪を振り下ろすどころではないようだ。苦悶しながらその巨体を身悶えさせる。
そしてそれを見据えながら静かに、そして冷ややかにエリオットが命令を下す。
「――<フルメン>」
精霊王がその身を青く輝くいかずちに変え、ベヌートの身を裂いた。
ガァァァァァァァァァ!!!!
断末魔が穴倉全体に響いた。
そうしてついに、ベヌートの巨体が、ゆっくりと傾いでゆく――。
轟音と土煙を上げながらベヌートが地面に沈み込んだ。
感電しビクビクと身震いしていたベヌートは、やがて完全に動かなくなった。
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