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エリオットが頭の傷から流れた血をジルタイト石に擦り付けると、石が怪しい輝きを放った。


汚れたローブの土を振り払ってフードを被る。
その場に膝をつき、杖を両手で水平に持ち上げ深く頭を垂れた。そうして精霊王へ最大限の礼を尽くす。
荒く息をつきながらも気を静める。ぽたり、ぽたりとこめかみから血が滴った。

決して焦ってはいけない。ベヌートのことは皆に任せたのだから。


息を吸って、静かに詠唱を始める。全ての精霊王を賛美する文言から始まる、長い長い詠唱を。
同時に精霊王の魔法陣を展開した。暗い穴倉に光の軌跡がエリオットを中心に陣を描いていく。

精霊王と交信するための巨大な魔法陣。エリオットは炎の精霊王と契約したときに使った魔法陣をもう一度呼び出したのだ。
魔法陣の中に描かれた名前を、炎の精霊王から雷の精霊王へと書き換える。

これだけでもかなり無茶をしている。喉の奥から血まじりの胃液がせり上がってきてエリオットはそれを吐き出した。
いくつもある名前と、力のありか、そのすべてを書き換えていくと、やがて魔法陣はほのかに青く輝いた。

雷の精霊王のことはフェリクスの元でかなり勉強していたが、それでも自信はなかった。ひとつでも間違えると失敗になる。
魔法陣の輝きは弱々しく今にも消えてしまいそうで、急がないと交信自体が途切れてしまう。

(……とりあえず陣は成功した)

難しいのはその先だ。ここからは雷の精霊王と繋がるための呪文詠唱に切り替えなければならない。
意思のない精霊だが、精霊王には『性格』と呼べるものがある。炎の精霊王は冷酷で、残虐だ。
そして雷の精霊王は、ひどく気難しいと聞いている。

ただでさえ急ごしらえの術なのに、話を聞いてもらえるかどうかすら怪しい。
しかし無理にでも話を通すしかない。気弱になれば、すぐにこちらを見限り術者に牙を剥いてくるのだから。

頭を垂れたまま、はぁ、はぁ、と息を吐く。

なけなしの魔力が次々と吸われていく。
周囲の喧騒が消え次第に自分の声しか聞こえなくなる。
鼻から血が流れ出て、ローブに染みを作った。


徐々に意識が朦朧として――







やがて目の前が真っ白になり、その場に倒れ伏した。





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