3
なんとか体を起こすと、バラバラと石と土が落ちる。しかし生きている。
エリオットは胸に抱きこんだメグに目配せをした。彼女は涙を流しながら色を失った顔でガタガタと震え、歯の根も噛み合っていなかった。
エリオット自身も心臓が壊れそうなほど激しく鼓動し、手が震えている。
「どう、どう……ど……しましょう……」
「…………」
(考えろ……考えるんだ――)
エリオットは萎えそうになる自分の気力を叱咤し必死に活路を考えた。
穴倉の入り口は狭く、ベヌートが塞ぎこむように立ち上がっている。
ベヌートの隙を突いて入り口に全員逃げ込むというのは難しそうだ。でかい図体の割りになかなか頭がいい。
唯一の活路である火の魔法は、メグの魔術では弱すぎる。あれではいくらやっても逆効果だ。
ならばエリオットの炎の精霊王の魔術しかないが――あれだけの巨体に対抗するには魔力が圧倒的に足りない。
以前のように生血の魔術を使うこともできない。今の不完全な状態でやれば、確実に命を落とすだろう。
「くそっ……」
エリオットは悪態をつきながら不安げに涙を流すメグの方を見た。
そして、彼女の杖の光を見て、ふと閃くものがあった。
(――それだ、それしかない)
迷う暇もなかった。エリオットはとっさに大声で叫んだ。
「ジン!!」
轟音が響く中、聞こえるはずもないとどこかで思っていたが、ジンイェンはすぐに姿を見せた。
彼も土と血で汚れているが、致命傷はないようなので安心した。
「エリオット!!」
駆けつけてくれたジンイェンに、エリオットはさっそく本題を切り出した。
「ジン、頼みがある。これから僕は大魔術をやる。儀式が必要だ。その間完全に無防備になるから、あいつの気を逸らして欲しい」
「わかった」
「……これを」
エリオットは自分の荷物の中から薬瓶を取り出した。なぎ倒されたときにほとんど割れてしまったが、一本だけ無事だったのは幸いだ。
「あいつは魔術の匂いを嗅ぎつけるみたいだ。だから、これで鼻を狂わせて欲しい」
それは魔力の回復薬だ。魔力が込められ、香草の匂いがきつい。
直接振り掛けるか、別の場所で振り撒けばしばらく気を逸らす事が出来るだろう。
無茶なことを要求している自覚はあったが、それでもエリオットはジンイェンの灰色の瞳をまっすぐ見据えた。
ジンイェンもエリオットの意図を承知したようにしっかり頷いた。
「そしてメグ」
エリオットはメグを振り返る。彼女も神妙な面持ちで頷いた。
「きみには盟友の印を貸す」
「……っ」
それだけでその意味が通じたようで、メグも腹をくくったように自身の杖を握りこんだ。
「エリオットさん……何をする気、なんですか……」
「――この場で精霊王と契約する」
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