穴倉の異変



休憩は短かった。十五分もしないうちにベリアーノから出発の号令をかけられる。
エリオットはジンイェンに軽く頬を叩かれて目を覚ました。
いつの間にか彼の膝枕で眠っていたらしく、ジンイェンが笑いながら見下ろしてきた。

「じゃ、俺また先導で行かなきゃいけないから。――エリオット、大丈夫?」
「ああ……平気だ」

エリオットはぼんやりと起き上がった。このひどい臭いの中よく眠れたものだと苦笑する。鼻が麻痺してしまったようだ。
すでに皆は出る支度を終えてベリアーノの近くへと寄っていた。

「お、おはようございます……」

メグはずっとエリオットの傍にいたらしく、様子を伺ってきた。

「……ああ」

いつまでも寝惚けていられないので、自分の頬を叩いてしっかりを目を覚ます。少し眠れたことですっきりとした。

「では、出発」

ベリアーノがそう言って、先を歩くジンイェンのあとについた。

ベヌは死んだ同胞には興味がないようで、エリオットたちが倒した亡骸はそのまま放っておいても問題はないらしい。
一説では腐った死骸を共食いするという逸話もあるが、あまり深く考えたくない話だ。

横穴を出ると、行く先々にベヌの死骸が転がっていた。ジンイェンが一人で始末したようだ。
比較的小柄なものばかりだが、これだけの数を一人で倒したというのは素直に感心する。



隊は静かに進んでいったが、歩みが突然止まる。
エリオットはジンイェンとベリアーノがいる先頭を少し背伸びをして見た。

「……どうしたジン」
「変だ」
「なにが……」
「ベヌが一匹もいない」

それはこの付近のベヌを全て始末したからではないかと思ったのだが、ジンイェンが言っているのはそういう意味ではないらしい。

「ベル、なんかやばい感じがする」
「それは――」

突然轟音と共に前方の壁がえぐれた。
土と砂煙に一瞬視界が閉じられる。

「うわっ!?」
「ぎゃっ……」
「ぷわッ!」

突然の事態に全員前後不覚に陥る。
石つぶてを跳ね除けながら湧き上がった砂煙が収まるのを待つ。しかしその時誰かが叫んだ――。



「ギガントベヌートだ!!」






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