3
数えるのも億劫なほど何度も何度もベヌを倒したあと、唐突にぱったりと途絶えた。
全員へとへとになりながらも身構えていたが、ジンイェンも戻って来ない。
ルフは周囲を見回したがそれらしい姿がないという。
(……まさか……)
最悪の考えがエリオットの頭をよぎる。まさか、ジンイェンが――。
はぁ、はぁ、と荒く息をつきながらエリオットは横穴の入り口をまばたきも忘れたように見つめた。
そのままどれくらい経っただろうか。
暗闇からひょっこりとジンイェンの夕陽色の頭が見えた。
「あ、終わった?」
「ジン……!!」
全員が同じ思いだったようで、ジンイェンが姿を見せるとホッと肩の力を抜いた。
エリオットはより一層その思いが強く、安堵に涙が出そうになった。
「どうだ?やつらまだいるか?」
「ん、大丈夫そう。このあたりのベヌはみんな誘い出したから」
そう言ってジンイェンが横穴の中に詰まれたベヌの死骸をざっと見渡した。
誘い出した数と倒れている数を照合して、違いがないことを確認する。
「お前がなかなか帰ってこねえから心配したぜ」
「……それなんだけどね」
ジンイェンが珍しく深刻な顔をして皆を見る。
「様子がおかしい」
「……ん?どういうことだ?」
ジンイェンが語るには、こうだ。
このロッカニア地下遺跡には何度も訪れているが、今まで坑道の大きな変化はなかった。
ところが、ベヌがいつも鉱石を溜め込んでいる横穴の様子を見に行ってみたが、何もなかったのだという。
中は爪痕でずたずたで、ひどい有様だった。そして今まで穴のなかった場所に大きな横穴が出来ていたのだと言ってジンイェンは難しい顔をした。
「問題なのがその爪痕でさ」
かなり大きい爪痕だったのだ。通常のベヌの十倍のサイズはあったという。
「……ギガントベヌート」
アニタがぽつりと言った。全員が彼を振り返って注目する。
「ベヌの、親玉。その血は毒だけど、薬にもなる……」
そしてベヌの集めた鉱石をさらに集めているのだという。その中にはめったにお目にかかれないかなり貴重な鉱石や魔石もあるらしい。
ただ、通常ならばもっと地中奥深くに根を張りめったに姿を現さないのだという。
「たぶん、メルスタンの騎士団が地表のベヌを掃除したせいだな」
ベヌートはその地表のベヌの鉱石を狙って浮上してきたのだろうと仮説を立てる。
ベヌの詳しい生態は未だ明らかにされておらず、そう考えるしかない。
「……どうする、ベル?」
ジンイェンがベリアーノに判断を仰ぐ。
腕を組んでしばらく考え込んでいたベリアーノだが、顔を上げて小隊リーダーとしての判断を皆に告げた。
「――よし、一回戻ろう。そしてロスバルトの判断を仰ぐ。どっちにしろそんなでっかいベヌ、オレたちの手に余る」
「うん、俺もそれがいいと思う」
このまま少し休憩してから全員で分岐点に戻ることになった。
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