2
ジンイェンが言ったとおり、広い横穴の中にまず三体のベヌが姿を現した。ルフが囮を引き継ぎ誘導してくる。
剣と槍で戦士たちが応戦する。ルフもダガーで鋭く斬りかかっていた。
最初の三体は難なく倒された。薬師が素早く倒れたベヌを脇にどける。
次の三体はやや苦戦した。一体だけ体の大きいベヌがいててこずったのだ。
しかし、大きいベヌにメグが火の魔法を打ち込んで、怯んだ隙に一気に畳み掛けた。
エリオットは自分が手を出していいものか迷っていた。また先刻のように足を引っ張ってしまうと思うとなかなか踏ん切りがつかない。
迷いながら皆の応戦を見ていると、背後からポン、と強い力で叩かれた。
薬師の大男、アニタだった。
「……みんな、信じる」
――ただ一言だった。それだけでエリオットは腹を決めた。
とにかく動きと乱戦に目を慣らさなければならない。エリオットは注意深く仲間とベヌを見た。
ベヌの動きは単調で、大振りに大爪を振り回している。その動きは素早いが後ろを振り向く動作は鈍いようだ。
剣士は足を止めて盾で攻撃を受けながらそれに応戦し、その背後から槍が突く。
ベヌの動きをかいくぐってルフのダガーが舞った。
縦横無尽に舞うルフの動きに注意すれば、決して目で追えない速さの戦闘ではない。
エリオットは早鐘を打つ心臓を落ち着けようと、両手で杖を握った。
呼吸を整える。魔法使は努力と根性――だ。
――背中だ。
ベヌの毛皮は厚くてすぐに燃え移ったりしない。そしてやつらは後ろの反応には鈍い。だから背中を狙う。
よく見ていると、メグも背中や頭を狙っている。
ルフが次のベヌを誘い出しに横穴を出たその時、エリオットはベリアーノと交戦していたベヌに向かって火魔法を放った。
「<イグニス>!!」
下位の火魔法だが、ベヌにはよく効いた。エリオットの魔術を受けたベヌはベリアーノから離れ、混乱したように背中を気にしている。
そこをすかさず、ベリアーノが斬りかかった。ベヌの心臓にベリアーノの大剣が沈み込む。
(……やった!)
魔法使の基本中の基本の術だが、エリオットは達成感で胸が一杯になった。
ベリアーノもエリオットをちらりと見て「よくやった」と言わんばかりに笑った。
アニタが素早く脇にどけた件のベヌは、背中の毛皮が全て焼け焦げて皮膚がむき出しになっていた。
明らかにメグの魔術とは精度も威力も違う。メグはそれを見て「ほわぁ」と感嘆と驚きを露にした。
そうして一度要領がわかってしまえば、あとは簡単だった。
何匹も連れてこられるが、そのたびにエリオットとメグの魔術が活躍した。
酸素で燃焼する火ではないので閉じられた広間でも酸欠になったりはしないが、ベヌの毛皮が焼ける臭いがひどい。
獣臭さと血の生臭さで気分が悪くなる。
横穴の上のほうに風穴を見つけたエリオットは、風の魔法でこのひどい匂いを逃がしながら上昇した室温を下げた。
少しは良くなるが、劣悪な環境のなか皆はベヌを狩る作業を繰り返した。
気分が悪くなったエリオットはせりあがる嘔吐感に何度も軽く吐瀉した。
胃に納めた食べ物をすっかり吐いてしまったあとは、こんな状況に慣れている様子の皆を見回して自分の脆弱さを改めて痛感した。
prev /
next
←back