ベヌ殲滅戦


エリオットを横穴の安全な場所に置いてから、ジンイェンは再び様子を見に行った。

続々と仲間たちが広めの横穴に避難してくる。
息を殺して様子を伺っていると、ジンイェンが姿を現した。

「……大丈夫。やつら探してるけど、ここまでは気付いてない」
「そうか……。だが厄介だな。今ので仲間を呼んだぞ……。このままじゃ中継地点にも戻れねえ」

ベリアーノの苦々しい言葉に、皆が押し黙る。
エムカルがエリオットに向かって蔑むような視線を投げかけた。

「おいおい、一級魔導士様じゃなかったのか?なんだよあのヘタクソな魔術は!」
「……すまない」

仲間の安全がかかっているこの場で言い訳などなんの理由にもならない。
エリオットは声を絞り出してただひとこと謝った。
准教授として生徒に偉そうに日々講義をしている自身がこのざまとは、情けなくて悔しくもある。

全員の間に嫌な空気が漂う。
明らかにエリオットのミスだが、他の仲間はエムカルのように声に出して非難するようなことはしなかった。
だが、空気が重い。エリオットも皆に迷惑をかけてしまった手前、顔を上げられなかった。
しかしそんな重苦しい雰囲気を払うようにジンイェンがパンパン、と手を打った。

「まぁまぁ、こんなのよくあることじゃない。絶望的な状況ってわけでもないし?ていうかいきなりあんなに数がいること自体珍しいって」
「……ああ、そうだな。ジンの指示が早かったおかげで誰も欠けてねえしな」
「そうそ。だからさ、俺から提案なんだけど」

ジンイェンは皆に聞こえるように、静かにゆっくりと喋った。

「やつらを少しずつ誘い出して、始末しようと思う」

ベリアーノが顎に手を当て、数瞬考えた。

「なるほど……うん、それしかなさそうだな」
「で、囮は俺がやる。ルフは俺の代わりを頼む」

ルフと呼ばれたトゥギー隊の女盗賊がひとつ頷いた。ジンイェンの代わりとは周囲を警戒し皆に伝える役だ。
囮と聞いて、エリオットは離れた場所にいるジンイェンを不安げに見つめた。その視線に気付いたジンイェンが、いつもの飄々とした笑みで応える。

「じゃあ、だいたい3、4匹くらいずつご案内するから。よろしく」

そう言って、ジンイェンはまた音もなく暗闇に消えていった。


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