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くだらない軽口の間にもすぐに時間は迫り、再びジンイェンとマッジは横穴の偵察に向かった。

「マッジ」
「問題ない」
「ジンイェン」
「大丈夫。あいつらもういなかった」

皆が一様に胸を撫で下ろす。

「では作戦通りに」

ロスバルトが声をかけると、打ち合わせた通りに分かれ、ベヌの横穴に突入した。



隊は斥候役としてジンイェンが先導し、そのあとにベリアーノがカンテラの明かりを頼りに歩く。
カンテラの灯はエリオットとメグの魔法火なのでちょっとやそっとの風や衝撃では消えないようになっている。

エリオットは杖のジルタイト石に光の精霊を集め発光させて歩いた。メグも同様にしている。
しかし地下遺跡の横穴は発光する鉱石がところどころに露出していて、灯りがなくともそれなりに明るかった。

かなり岩盤が固い土地のようで踏みしめる地面は土と砂でしっかりとしている。崩れてくる気配もない。
逆に言えば、ここまで固い土を掘ってねぐらにしているベヌの爪の凶暴さをありありと感じられた。
ベヌの爪には粘液があり、土を掘ると同時にその粘液で道を固めていると本には書いてあったことを、エリオットはぼんやりと思い出した。

そんなときだった。ジンイェンの小さな声が響く。

「……いた」

全員に緊張が走る。
ジンイェンが片手を開き、もう片手は拳を握り親指だけ立てて皆に見せた。六体いる、という意味だが、エリオットにはその合図が分からなかった。

先手必勝――ベヌに気付かれる前にベリアーノが走り出していった。続いて他の前衛が駆け出す。

ベヌはもぐらのような外見であるに関わらず二足歩行で立ち上がっていた。もぐらというよりは熊のように見える。
全身が深い毛で覆われており、大きく開けた口からは乱食いの牙と紫の舌がのぞく。
目にあたる部分も毛皮が被っていて、盲目だというのは本当のようだ。
ベヌは両手の四本の大爪を振り上げて唸りながら侵入者の人間を威嚇していた。

エリオットはメグに教えてもらったとおり薬師をかばうように彼らと距離をとる。
仲間の治癒をする薬師は重要だ。彼ら自身もそれなりに戦えるが、生命線である治療薬を持っている彼らをまず守らなければならない。
そして遠距離から魔術を行使し前衛の仲間をサポートする。

――そう、頭では分かっているのだが、六体のベヌとの交戦はかなり乱雑で魔術を使うタイミングがつかめなかった。

隣のメグが意識を集中させて火の魔法を打つ。
毛皮を焼かれたベヌが慌てふためく隙に剣士が斬りかかっていた。

なるほどそういうことかと魔術を当てようとしたが、ベヌの動きはかなり素早く不発に終わった。
ベヌの近くに落ちた魔法火がやつらの闘争本能を刺激してしまったようで、耳障りな金切り声が上がった。
一匹が鳴くと、それに共鳴するように次々と金切り声が連鎖した。

「やばっ……!」

いつの間にか傍に来ていたジンイェンが、エリオットの手を引っ張って走り出した。

「一旦退却!そこに横穴がある!」

ジンイェンの指示で、皆がベヌと応戦しながらじりじりと退却する。

目がないベヌは、少し離れてしまえば人の姿を見失う。
おまけに土を掘るのは速いが走るのはかなり遅いので、人が走る速度には追いつけない。
しかしやつらが耳がいいことを知っている皆は、極力音を立てないよう細心の注意を払い穴倉を逃げた。


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