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エリオットが初めて目にした地下遺跡は見事なもので、階段を下りるとまず広間があった。
柱にほどこされた意匠も天井のレリーフも崩れかけてはいるが実に優美だ。
中はひんやりとしていて埃と土の匂いが充満していた。

奥の祭壇らしき場所の壁にぽっかりと大穴が開いている。ベヌが掘った穴に違いない。

そのまま進み十分ほど歩くと、ロスバルトが言っていた場所に来た。
地下の更に下にある地下墓地のようだった。やや広めの石室に横穴が開いており分かれ道になっている。

石室ではローザロッテが神に祈る所作をした。
彼女が信仰する神を示す意匠が部屋中に彫り込まれていたからだろう。偶像崇拝を禁じられている宗教なので、文字や意匠などでそうと分かる。

「マッジ」

ロスバルトが盗賊のマッジを呼び、先を促した。
無言で頷いたマッジは明かりもなしにそのまま左側の横穴に消えていく。

「おい、ジン」
「えっ、俺?」

ベリアーノに呼ばれたジンイェンは己を指差しながら心外だと首を振った。

「さっき自分で言ったことを忘れたのか。働け!」
「はいはい……」

エリオットと離れがたそうにしていたが、ジンイェンは諦めたように首に巻いたストールをするりと解いて、それで鼻と口をしっかり覆った。
彼もやはりマッジと同じように明かりなしで右の横穴に消えていった。

盗賊は暗闇の中でも周囲を探索できる技能があるようだ。

ほどなくしてマッジが左の横穴から姿を見せる。先は問題ないというようにロスバルトに頷いてみせた。
ジンイェンも戻ってきたが、口布を解いた彼のほうは微妙な顔つきをしていた。

「……どうしたジン、トラブルか」
「うーんん?トラブルっていうか……別に変なガスとかはなかったんだけど……」
「なんだ、歯切れ悪いな」
「……ベヌのつがいがお取り込み中で」

ブハッと噴き出す音が何人かから聞こえる。ベヌの交尾を目撃してしまったジンイェン当人も複雑な表情だ。

「ベヌって生殖活動するのか……興味深い」

サズ隊の薬師がぼそりとつぶやく。なかなか知られていない事実のようだ。
ベリアーノが困ったように頭を掻いた。

「どうするロスバルト」
「……ジンイェン、やつらの交尾は長そうなのか」
「どうかな。俺も初めて見たし……なんか男としては邪魔するのも気が引けちゃうよね?」
「う、うむ……」

ロスバルトが不自然に咳払いをした。
エリオットの隣に立っているメグも頬を真っ赤に染めて両手で覆っている。

皆の反応もまちまちでどうするのが得策か考えあぐねているようだ。

「……では五分ほどしてからもう一度マッジとジンイェンに偵察に行ってもらう。そこでまだ……取り込み中だったとしても突入する」

ロスバルトの指示に皆が従うように頷く。
そうして少し空いた空白時間にジンイェンがエリオットの傍に戻ってきた。

「いやー俺、狩猟者生活結構長いけど、あんなの初めて見た。あいつらのセックスってグロいねぇ。夢に出そう」
「オイやめろ、想像しちまうじゃねえか」
「いやね?最初共食いでもしてるのかと」
「やめろって!」

おえ、とベリアーノが吐く仕草をする。それを見てジンイェンがけらけらと笑った。
そして特に顔色も変えないエリオットを見てジンイェンは挑発するように顔を覗き込んだ。

「あれ、エリオットは無反応?」
「生物なら当然のことだろう」
「や、そうかもしれないけどさぁ……ほんと、アンタってお堅いね」

からかい甲斐がないなぁとジンイェンが口を尖らせる。




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