ロッカニア地下遺跡



この狩りの総括リーダーであるロスバルトから号令がかけられたのは、その三十分後だった。


ジンイェンに「あの人ね、元騎士だよ」と小さく耳打ちされてエリオットは納得した。規律正しそうな威厳のある風格のロスバルトは確かにそのように見える。

ロスバルトから再度の確認として言われたのは今日の狩りの概要と隊分けだった。

半月前、南のメルスタン王国の小規模騎士団によるベヌ掃討作戦があったようで、今回はいわばその残り掃除だった。
そのため、他の狩猟者は今日はいないのだと説明された。

地下に入ってしばらくすると、道が二つに分かれるのだという。
一方は広く、大ベヌと呼ばれる群れを率いる大将格のベヌがいる。そちらはロスバルト隊の6人とコレット隊の6人が向かう。
ロスバルト隊にはローザロッテが編成されているので、エリオット、ジンイェンの二人と彼女とは別行動になる。

もう一方はやや狭く、単独で行動する一般のベヌが多く生息している。そちらにはベリアーノ隊6人とトゥギー隊5人が向かうことになっている。
油断すると囲まれかねないから注意するようにと再三ロスバルトが注意する。

残りのサズ隊5人は分かれ道の前で待機し、何かあったときの補佐として行動する役割のようだ。
不測の事態から逃げてきた者たちを誘導したり足止めをする役割で、決して気が抜けない。一人いる鍛冶師はこの隊に入るらしい。鉱石を見分ける鍛冶師がやられてしまっては、ベヌの討伐が成功しても元も子もない。

また更に言われたのは決して深追いしないことだ。

ベヌの巣は奥深い。遺跡中に蟻のように穴を掘ってねぐらにしているのだという。迷い込んだら出てこられなくなるのだ。
所々に風穴が開いているので酸欠の心配はないそうだが、巣穴の奥のほうになると空気が行き届かなくなるのでその注意喚起も併せてされた。

それらの注意事項を確認したが、エリオット以外の者はすでに聞き飽きている情報らしく無言で頷いたり声をあげたり反応はまちまちだ。

これだけの人数でかかれば決して難しくなく旨味も多い仕事のようで、皆のんびりとしたものだ。
時々民家へと穴を掘って出没する繁殖力旺盛なベヌの討伐は、国から正式に触れ出されている仕事でもあるから実入りもいいようだ。

そもそも、どういう経路を辿ったのかベヌが遠く離れた南の国境の民家に出没し、村をひとつ食い荒らしたせいでメルスタンの騎士団が動いたのだ。
帝国は王国の介入を嫌ったようだが、鉱石には手を出さないという約束で承諾したようだ。

どれも、狩猟者とは関わりのない世界で生きているエリオットにとっては初めて耳にする話ばかりだった。
自分がいかに狭い場所で生きていたのかと知って、途端に恥ずかしくなる。

「では、出発!」

ロスバルトの号令に、皆がぞろぞろと動き出す。
荒くれ者で自分勝手だと思っていた狩猟者だが、リーダーの命にはきちんと従い、己の役割を弁えているようだった。





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