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その様子を見ていたローザロッテが眉をひそめた。

「……なんか、エリオットお疲れ?」
「んー、そうみたい。魔力がなかなか戻らないんだって」
「それってジンに変な術かけてたせい?」
「――変な術?」
「そう。あたしが怪我してるジンのところに連れて行かれたとき、治癒を始めようとしたら術はじかれちゃってさ。で、エリオットに言ったらジンに術かけてるから解除するって言って。解除した途端エリオットが倒れたんだ」

ローザロッテは気遣わしげにエリオットを見やった。

「あたしは魔術のことなんか全然わかんないけど、たぶんあれ、禁呪の類じゃないかと思うよ」
「……それだ」

エリオットはその前にもかなり無理をして魔術を行使していた。
その上ジンイェンにかけたという謎の術が、エリオットの体を蝕んでいるのだろう。

「そうなのか?その……大丈夫なのか?」

ベリアーノがおずおずと心配そうに声をかける。彼が心配しているのは魔法使としての働きだろう。
ジンイェンはにやりと不敵に笑った。

「だから、俺がついてきたの。エリオットは並みの魔法使以上の力はあるし、ベヌくらいだったら余裕でしょ」
「彼はそんなにすごいのか?」

ノーラがエリオットを起こさないよう小声で聞いてきたので、ジンイェンは頷いた。

「ほんと、すっごいよ?惚れ惚れしちゃう」
「ふーん……そんな風には全く見えないが?」

ジンイェンにもたれながら呑気に眠っているエリオットを見て、ノーラが訝しげに言う。

「ま、エリオットにあんまり負担かけないよう、俺が倍働くからさ」
「ほー、ずいぶん殊勝なことを言うようになったな」

マッジがからかうようにジンイェンを小突いた。ベリアーノもうんうんとしきりに頷く。

「よし、その言葉覚えておけよ!今日はきっちり仕事してもらうからな!」

ベリアーノの大声にエリオットが眉をひそめてぴく、と震える。ジンイェンに人差し指を立てて「しぃ」と注意され、ベリアーノはあわてて口をつぐんだ。
エリオットが再び寝入ったのを確認して、ベリアーノは今度は小声でつぶやいた。

「……ジンさぁ、マジかよ」
「なにが?」
「いや、何でも……」

ベリアーノは首を振って幸せそうにしているジンイェンから目を逸らした。



ベリアーノとジンイェンの付き合いは結構長い。
ジョレットに来る前、オルキア内の狩猟者の依頼斡旋所で何度も鉢合わせし、その都度パーティを組んできた。
ジンイェンの盗賊としての腕は確かだし、彼のほうも腕の立つ剣士と組めるのは都合が良いらしく、難易度の高い依頼を共にこなしてきた。

そんな付き合いの中でひとつ言えることは――とにかくジンイェンは女に好かれやすい。
オルキア人には見られないミステリアスな魅力や、手馴れた雰囲気が異性を吸い寄せるようだ。

切れ長の目元のすっきりとした面立ちと口元のほくろがセクシーだと女達はこぞって言う。
ちょっとイイ雰囲気になった恋人(未満)をジンイェンにあっさり取られた過去のあるベリアーノは、何度悔し涙を流したか知れない。
ジンイェンは女をうまく扱う術を心得ており、他の狩猟者の間で同様の事例はいくつもあった。同性愛者であるローザロッテもやはりその被害に遭っているだろう。

ジンイェンは裏社会にも通じているようでとにかく彼の周りはトラブルが絶えない。
飄々としてそれらを上手に切り抜けては、またトラブルに見舞われる。
そんなジンイェンだが不思議と憎めないのもまた事実だ。
生い立ちは不明で誰が聞いてもはぐらかされてしまうが、苦労して生きてきたと思わせる一面があるせいかもしれない。

そんなジンイェンが、一人の――しかも男にこれだけ心を砕いているとは。ベリアーノはとにかく目の前の光景が信じられなかった。

エリオットに自ら肩を貸して、好奇の目で彼を見る輩に牽制までするジンイェン。
おまけにエリオットの方もそんなジンイェンを憎からず思っているように見える。
そうまでするほど二人の間に何があったのか聞きたいところではあるが、藪蛇になりそうで深く聞けない。

とりあえず幸せそうな二人を放っておいてやろう、と兄貴肌のベリアーノはそう決意した。

(……このぶんじゃ、まだジンも自覚してないっぽいな)

――少々の邪推は許されると勝手に結論付けて。





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