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エリオットが杖を振り店の外の壁に転移魔法陣を描くと光の軌跡を以って魔法陣が展開され、壁が水面のように揺らめいた。
なかなか見る機会のない高度な魔術にローザロッテが口をぽかんと開く。

「はやく来てくれ」

言いながらエリオットは彼女の腕を掴んで魔法陣を通り抜けた。
エリオットの転移魔法陣は自宅の屋敷前にしか設定していない一方通行なので、先刻と同じ場所に出る。

「ここは?」
「僕の家だ。友人は部屋に寝かせてある」

ローザロッテを伴ってジンイェンの寝ている部屋まで足早に歩く。
静かにドアを開け、出て行った時のままジンイェンがベッドに横たわっている姿を確認してエリオットは胸を撫で下ろした。
片手を振って部屋の魔法灯を点ける。するとローザロッテが驚いたように大声を出した。

「ジン!?」
「……知り合いか?」
「うん?まあ……知り合いって言えば知り合いか……」

ローザロッテが顔を嫌そうに歪めている。彼女はジンイェンとなにかしら浅からぬ因縁があるようだ。

「つーか、変な術がかかってない?」
「あ、すまない……いま解除する」

エリオットはジンイェンの枕元に跪いて彼の額に指を二本置いた。そして解呪の呪文を唱えると、一気にエリオットの体が重くなった。

「くっ……」

目の前がちかちかと白く激しく明滅する。
これが時の魔法の恐ろしいところだった。解呪した際に、術をかけた時間分の魔力を吸われる。
引き際を見誤れば自分の持つ魔力以上の力を吸われ、一生目が覚めなくなってしまうかもしれない危険性を孕んでいる。その上さらに自分の寿命まで削られるのだ。
正直に言って二度と使いたくない魔術だった。
今日はかなり大きい魔術を行使したから今の分で魔力がほぼ空っぽになってしまった。
エリオットはついに立ち上がることもできなくなり、ジンイェンの寝ているベッドにどさりと上半身を沈めた。

ローザロッテはわざわざ指示されずとも、エリオットが術を解除したその瞬間入れ替わるようにジンイェンの治癒にかかった。
最初に彼女達の神に祈るような所作をするあたりは、やはり神官だ、と思う。
エリオットは、はっ、はっ、と浅く息を吐きながらジンイェンの様子を見た。もう頭を上げてもいられない。

「――あんた、エリオット、だっけ?」
「……?」
「ジンの手、握ってやっててよ」

自分で腕を動かすことすら難しい状態のエリオットの手をローザロッテが掬い上げ、ジンイェンの手の上に重ねる。
ジンイェンの骨ばった手はあまりに冷たく、エリオットは背筋が凍った。

「……これくらいの傷、あたしが治してみせるから任せて」

ローザロッテの微笑みを見た瞬間、エリオットもついに意識を手放した。




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