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先程の酒場とは比べものにならないほどの喧騒がエリオットを包む。
青、紫、赤、黄色の魔法の灯が怪しく客と踊り子を照らしている。場内は不自然に強い甘い香りと煙草の白い煙で満たされていた。
円形の舞台の上で裸同然の踊り子が音楽に合わせて扇情的に踊る様を見て、さすがにエリオットも腰が引けた。

すぐに店の者らしい禿頭の大男がエリオットに声をかけてきた。上半身は裸の胸を何本ものベルトで締め付けており黒光りする筋肉を剥き出しにしている。

「いらっしゃいませ、お客様。お席にご案内しましょうか」
「あ、い、いや。人を探してて……」
「かしこまりました。ごゆっくりお楽しみください」

抑揚のない喋り方の大男はエリオットを金にならない客だと判断したらしく、さっさと離れていった。
エリオットはすぐに辺りを見回して桃色の髪の女給を探す。人ごみを掻き分けながらそれらしき人物が見つかったので早速声をかけた。

「あの、リリアナっていうのはきみかな」
「リリアナ?人違いよ。彼女はあっち」

豊満な体つきの女性が指差す先に、やはり桃色の髪の女性が見えた。礼を述べて人を掻き分けリリアナのところへなんとかたどり着く。
彼女は小麦色の肌に布地の少ない服の――服というよりもはや紐としか言いようがない――目のやり場に困る体つきをした女性だった。

「リリアナ?」
「はぁい」

彼女が名を呼ばれて愛想よく返事をする。そしてエリオットを見て不審な視線を向けてきた。

「すまない、ローザロッテという神官を探しているんだ。今日は来てるかな」

エリオットが言いながら金貨を一枚リリアナに握らせると、彼女はにっこりと男心をくすぐる笑顔になった。

「いるわよ。ついて来て」

くねくねと腰を振りながらリリアナが客の合い間を器用にすり抜けていく。長い杖を持っているため他の客に引っかかりながらもエリオットは必死に彼女の後を追った。
彼女の魅惑的な尻につい目が行きそうになるが、わざと視線をそらしながらついて行くと店の隅の席に案内された。

「ロージィ、あなたを探してるって人連れてきたわよ」
「ん?」

リリアナにロージィと呼ばれた人物は舞台の踊り子から目を離して振り向いた。
耳の下あたりで切りそろえた真っ直ぐの黒髪。ぽってりとした厚みのある唇と鼻の頭に薄く浮かんだそばかすが魅力的だ。
そして小柄ながら体つきにはっきりとした凹凸がある。――ローザロッテは女性だった。
ローザロッテはエリオットを見るや否や、釣り上がった瞳をさらに吊り上げ犬歯を見せた。

「リリアナ、その男に変な事されてないか?」
「いやぁね、ただ案内してきただけよ。あなたに用があるっていうから」
「あたしに用?初めて見る顔だけど?」

リリアナが他の客に呼ばれていくと、ローザロッテは渋々エリオットを隣の席に招いた。

「で、魔法使があたしに何の用なわけ?」
「時間がないから単刀直入に言う。僕の名はエリオット。ベリアーノという剣士にきみを紹介されてきた」
「ベル?へえ。久しぶりに名前聞いたね」
「僕の友人が重症の傷を負っている。神官であるきみの力を借りたい」
「見返りは?」
「僕が出来ることなら、なんでも」

少しの躊躇もなくそういうエリオットにローザロッテはいささか驚いていた。

「ふん、その友人とやらが大事なようだね」
「……ああ」
「いいよ。案内してくれ」

ようやく神官の協力を得られてエリオットは安堵した。しかしジンイェンを屋敷に寝かせてきてすでに一時間は経っている。
そろそろエリオットの術も限界だ。ローザロッテの支払いをエリオットが代わりにテーブルに置き、彼女を伴って店を出た。



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