3


治癒の神聖術を得意とする神官の心当たりは、正直に言って思い当たらなかった。

ジョレットの街に神殿はない。首都まで行けばあるがこの場所からだとかなり遠いので、神官を求めてそこまで行っていられない。
とすると狩猟者の神官に頼むのが手っ取り早いだろう。
しかしエリオットのような狩猟者ではない魔法使は神官との交流がない。ならば、彼らの集う場所に直接赴いて交渉するしかないのだ。

エリオットは痛む体を無心に動かしながら、以前ジンイェンから聞いた狩猟者の酒場へと向かった。
酒場に着くと、一気に喧騒とむっとした熱気に包まれた。
深夜にもかかわらず店内は賑わっている。素早くあたりを見回すが、それらしい風体の者は見当たらなかった。神官は他と比べて絶対数が少ないと聞いてはいたがやはり落胆を隠せない。
とりあえず情報が欲しくて近くにいた剣士らしき男に声をかけた。

「すまない、神官を探してるんだが心当たりはないか」
「あン?人探しか?」

体格のいい男は酔っ払った真っ赤な顔をエリオットに向けた。
エリオットはおそらく今、頬が腫れ上がったひどい顔をしているだろう。剣士の男も一瞬エリオットを見て驚いていた。

「違う。神官なら誰でもいいんだ。できれば腕の良い術者だとありがたい」
「その顔治療してほしいのか?」
「いや、僕じゃない。……重傷の友人がいるんだ」
「ふぅん……」

剣士がエリオットを上から下まで無遠慮に見る。いつもならそんな視線は不愉快極まりないが今は全く気にならなかった。

「……なんか訳ありっぽいな。オレの仲間に神官はいねえが、一人知り合いがいる。腕前も文句ないはずだぜ」
「紹介してもらえないか。今手持ちは少ないが、後で必ず礼はする」
「そうだな……」

剣士は一緒に飲んでいた仲間と何事か耳打ちで相談した。仲間の方も頷いて二人の間で何かを納得したようだった。

「礼なら、あんた見たとこ魔法使みたいだから俺たちと一緒に狩りに行くってのでどうだ?」
「いいだろう」
「じゃ、これオレの」
「……?」

剣士が腕を差し出してきた。その意味が分からずエリオットは首を傾げた。
狩猟者のルールはエリオットには理解できない。

「……おいおい、もしかして野良魔法使かよ?」
「そう思ってくれていい。ギルド登録はしてないが、れっきとした魔法使だ」

エリオットが左手を差し出し魔法使の証である指輪を見せると、剣士とその連れは息を呑んだ。

「まさか……あんた、一級魔導士……」
「不満か?」
「いや、あんたみたいな腕のいい魔法使をさがしてたんだ。ぜひ頼みたい。四日後、午前八時にこの酒場の前で落ち合うってのはどうだ?」
「わかった」

剣士から神官の情報をもらい、エリオットは剣士にとりあえずの礼として酒代のオルキア銀貨を二枚渡した。
件の神官がいると教えられた場所が酒場からそう遠くない場所だったのは助かった。

指示されたのは酒場から道を二本ずれた先、裏通りのストリップバーだった。
普段ならば絶対に足を踏み入れることのない場所だが、エリオットはとにかく気が急いていて躊躇せずに重い木のドアを押し開けた。



prev / next

←back


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -