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「……はぁ?何言ってるんだか。意味わかんね――」
「――シャオ・シン・ファーロン」

ロウロウの言葉にジンイェンが硬直する。
エリオットはもとより部下の男達も意味が分からないといった様子で互いに顔を見合わせていた。

「だろう?ジンイェン……いや、ファーロン」
「――てめえ、何で……」

そこでロウロウが初めてエリオットの方を見た。にぃ、と獰猛な笑みを浮かべる。

「何がなんだかわからねえってツラしてる別嬪さんにも聞かせてやろうか?」
「……黙れ」

ロウロウは愉快だと言わんばかりに唾を飛ばしながら大声で笑い、部下にジンイェンを任せてから地下牢の鉄格子を開ける。
もとから鍵はかかっていなかったようで錆付いた耳障りな音とともに格子はすぐに開いた。

「お前さんも可哀想になァ。ジンイェンと関わっちまったばっかりにこんな目に遭っちまって」

ロウロウがエリオットの細い顎を片手で持ち上げる。そのまま噛み付くように口付けた。
粘ついた舌がぬるりとエリオットの口内に侵入してくると腐った水のような不快な臭いがした。

「……ッ、ぅ……!」

あまりの気色悪さに吐きそうだった。強い拒否反応を示すように、エリオットは口内を蹂躙するロウロウの長い舌を思い切り噛んだ。

「んんっ?ふ、ぶははッ……刺激的なキスだな!気の強い美人は好きだぜえ?屈服させてやりてェって勃起しちまうぜ!」

まったく堪えていないばかりか血の滲んだ舌で唇をぺろりと舐め上げるロウロウ。エリオットは侮蔑の意味を込めて唾を吐いた。
一方ジンイェンもいつもの笑みをすっかり消し去り、射殺しそうな鋭い目でロウロウを睨みつけている。

「さて覚悟はいいか?ファーロン」
「その名で呼ぶな……クソッ」
「そうか、まあ俺も正直指輪はどうだっていいんだがなァ。俺様のアジトから盗みをしたってのがまずいんだ。下に示しがつかねえ」

チッ、とジンイェンが忌々しげに舌打ちをする。

「……俺の服の背中側、破ってみろ」

ロウロウが部下に向かって顎をしゃくると、ジンイェンの側に控えていた一番年の若い男がジンイェンの服をナイフで裂いた。
中から出てきたのは、小さな薬包紙だった。
若い男がロウロウに薬包紙を渡す。ロウロウはそれを開いて中身を指先に付けて舐めた。

「……!オイオイこりゃあ……」
「アンタがずっと欲しがってたやつだよ。俺のルートをやる」

ジンイェンの言っている『ルート』というのはおそらく麻薬の類のものだろう。エリオットはなんとなくそう察した。
エリオットには聞かせたくない話なのか、ジンイェンは訛りとスラングの強いヒノン語でロウロウに何事かを説明していた。
一通り説明を聞き終えたロウロウは目で部下を促し、部下の一人が風のように階段を駆け上って行った。

「……言っておくけど、ルートを譲ったってことで俺にも売人からなんらかの接触があるから、ここで俺を殺すとアンタやばいよ?」
「わーかってるって。俺だってリーホァンの親父を敵に回したくはねえさ」

ロウロウは顎鬚を撫でながらジンイェンをニヤニヤと見下ろした。

「でもなァ、それだけじゃ俺の気がすまないんでな。チィっとばかし痛めつけさせてもらうぜ」
「好きにしろよ。ただし……」

すう、とジンイェンとエリオットの視線が絡む。

「――その人には手を出すな」

ジンイェンが毅然と言う。灰色の瞳がまっすぐにエリオットを見据えた。
強い眼差しだった。彼が何を思っているかは分からなかったが、ただ自分を守ろうとしてくれているのだということはエリオットにもはっきりとわかる。

「ジ、ン……」
「ククク……いいだろう!――おい、やれ」

ロウロウが顎をしゃくると、部下は心得たようにジンイェンに暴行を始めた。
それは思わずエリオットが目を逸らしてしまうほどの容赦ない私刑だった。
骨が砕ける鈍い音や、ジンイェンが嘔吐する声が耳に届くたびにひどく胸が痛んだ。その痛みに耐え切れず幾筋も涙が流れる。
男たちが笑いながらかわるがわるジンイェンに暴行を続ける。
エリオットは何度ももうやめてくれと叫びそうになったが、身を張って己を守ってくれたジンイェンのため、唇を噛んで耐えた。

「こいつァ愉快なショーだな!ああ!?死に損ないのファーロンちゃんよォ!!」

ロウロウが高らかにだみ声を上げる。
それは永遠とも言えるほど長い時間に思えた。



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