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エリオットはその後なかなか寝付けなかった。
ベッドで横になりながらたくさんのことを考えていた。



空が白く明るくなってきた頃少しだけ眠ったが、眠りは浅くすぐに目が覚めた。
いつもと同じ時間に起きたが、休日だったことを思い出し再び枕に顔をうずめる。
もう少し寝ていても良かったかと思ったが、寝返りを打つことに飽きて結局起き出した。

ジンイェンはまだ寝ているだろうか。それとももう起きて朝食の準備をしているのだろうか――。
昨夜の醜態を思うと彼と顔を合わせるのは少し照れ臭いが、無性に彼の声が聞きたいと思った。

台所を覗くと、そこは無人だった。
整理整頓された食器棚や、きれいに磨かれた調理台、並べられた包丁など、それらはジンイェンが掃除を欠かさなかった証だ。

(まだ寝てるのか……?)

エリオットは台所を出てジンイェンに宛てがった部屋に向かった。

「ジン……?」

二回ノックをして声をかけたが返答はなく、ドアノブを静かにひねってみると、戸はちゃんと閉まっていなかった。

「ジン……」

もともとは従者のための部屋なので、狭いがベッドも家具も一式揃っている。部屋は薄暗くしんと冷えていた。――部屋はもぬけの殻だった。

「ジン!?」

ベッドはきちんと整えられ、ひんやりと冷たかった。ジンイェンが昨晩このベッドを使っていないことは明らかだ。
エリオットは家中を走り回った。そのどこにもジンイェンの姿はなく、彼はこの家からすでに出て行ったのだと知った。
地下の食料貯蔵庫まで入ってみたが、やはり誰もいなかった。
地下には霜の魔法をかけており、常にひんやりと冷たい。ジンイェンが揃えた食材がまだ幾ばくか残っている。

「ジン……」

それから夜になっても、日付が変わっても、ジンイェンはついに帰って来なかった。



次の日には、書斎の机の中にしまいこんでいた龍の指輪もなくなっていることに気付いた。
かわりに家の鍵が入っていた。ジンイェンに預けたものだとすぐにわかる。
ジンイェンは本格的に出て行ってしまったのだ。もともと十日という期限付きだったのが少し早まっただけだ。

ただ、別れの言葉もなくあのような最後だったことが、エリオットの胸中に影を落とした。



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