5


エリオットとジンイェンは夕食のあと、居間で共に酒を嗜みながら他愛ない世間話を重ねた。
話の流れでジンイェン自身のことが話題になった。
彼は見かけ通り北部の生まれだが、狩猟者として東部に移り住んで長いのだという。だから言葉も訛りのない共通語で、各地の風習や文化に精通しているらしい。

「その服は?ヒノンの装束だろう?」
「ああうん、これだけはやっぱり着慣れてるから北部製の方がいいんだよね」
「そういうもの?」
「そういうもん」

盗賊としての複雑で素早い動きをするには着慣れている服が一番良いのだという。
彼の少ない着替えもやはり似たような衣服ばかりだった。外出するときは長いストールを巻くくらいで基本的には変わらない。

「ちょっと目立つけど、これが一番しっくりくるんだよねぇ」
「目立つのは服のせいだけじゃないと思うが……」
「そう?たしかに俺ってイイ男だけど」
「いや……髪の色、とか……」
「あーこれねぇ、染めてんの」

夕陽色の毛先をねじりながら、ジンイェンが誇らしげに笑う。本人は気に入っているようだ。
根元からきっちりと染まっているが目立って仕方がないだろう、とエリオットは内心呆れた。
狩猟者は変わり者が多いと聞くが、彼を見る限りその噂は間違ってないと思う。

「――そういえば今日図書館近くの市場でジンを見かけたが、あの辺りに何か狩猟者の施設があるのか?」
「ん?図書館って国立図書館のこと?あー斡旋所があるからちょうどその帰りだったかな」
「斡旋所?」

ジンイェンが言う斡旋所というのは、狩猟者が仕事を探しそれを請ける施設なのだそうだ。
他にも各ギルドの統括支部として機能しており、要するに狩猟者のためのあらゆることの窓口なのだという。

「その斡旋所で仕事探しでも?」
「ううん、いま休業中。ちょっと人待っててね。そいつとは斡旋所で落ち合うことになってるから通ってるだけ。……まぁまだ来ないんだけど。あと、酒場にも一応情報収集だけは行ってるかな」
「……酒場?」
「そ。昼間はだいたい酒場に行ってるよ。狩猟者が集まる酒場ってのがどこの街にもあってね。ここから結構近いんだ」
「へぇ……」

場所を聞いたが、たしかにこの屋敷からそう遠くない所だった。歩いて数十分といったところか。
そのあたりは歓楽街が近いのでエリオットはこれまで訪れたことがない。

「俺、ジョレットに来て半年くらいだけど、来たばかりの頃はとりあえずその辺で酒飲んでたんだよね。つっても他の街で会った奴も結構いたからあんま新天地って感じじゃなかったけどさ」
「じゃあ僕たちは知らないうちに結構近くにいたんだな」
「狩猟者のコミュニティと生活サイクルって独特だから、すれ違ったりはしてないと思うけどね」

それはそうだ、とエリオットは頷いた。もし街中ですれ違っていたらジンイェンのような風貌は絶対に忘れないだろう。
ジンイェンが酒を一口含んでごくりと嚥下する。アルコールの吐息を漏らしながら肩を竦めた。

「そもそも俺も首都とここをしょっちゅう行き来して色んな場所を転々としてたし、エリオットみたいな目立つ奴なんか見たら必ず覚えてるって」
「……ジンにだけは言われたくない」
「え、なんで」
「ところできみは普段どこに寝泊りしてたんだ?」

どのあたりの宿屋を拠点にしていたのかという意味で聞いたのだが、ジンイェンの回答は予想を裏切った。

「娼館」
「は?」
「だいたい娼館で寝てたよ。商売女は金握らせておけば口堅いし、気持ちよくなれるし?」

あっさりと言われて、エリオットは面食らった。どう返答していいかわからず黙ってしまうと、ジンイェンがにやりと嫌な笑みを浮かべた。

「いい考えでしょ?そのぶん金かかるけどね」
「…………」
「え、なに、エリオットってその年でもう枯れちゃったクチ?」

猥談に乗ってこないエリオットをからかうようにジンイェンが笑う。

「せっかく綺麗な顔してんのにもったいないねぇ。女の子にたくさん言い寄られるでしょ?あ、それともソッチの趣味?」
「……くだらない」
「そう?こういう話って普通盛り上がると思うけど。アンタずいぶんお堅いね。それとも亡くなった奥さんに操立ててるのかな?」
「……っ……」

ティアンヌのことを不意に切り出され、エリオットは不快そうに顔を顰めた。
不自然に黙り込んだエリオットの顔を覗き込んでジンイェンが険しい表情をする。

「……アンタさ、もしかしてそうやって奥さんのこと、誰かと話したりしないの?」
「か……関係ないだろ」
「それって奥さん、可哀想じゃない?」
「……は?」



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