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美味い食事を堪能してからエリオットは午前中を読書に費やした。
国立図書館に泊り込んでいた際についでに借りてきた巷で人気の空想小説だ。

図書館の職員に勧められたものだが、普段魔術書や歴史書ばかり読んでいるエリオットにはその面白さはいまいち理解できなかった。
狩猟者の主人公が様々な冒険をするという粗筋を聞いただけでもどうにも食指が動かない。何巻も出ているという話だからその人気は不動のものなのだろうが――。
それだったら現役狩猟者のジンイェンの話を聞いたほうがよほど面白い。エリオットは半分ほど読んで本を閉じた。

昼を少し過ぎた頃、地下の貯蔵庫からパンと昨夜の残りの食事を出してきて昼食にした。一人だと思うとどうしても怠惰になってしまうが、ジンイェンの作り置きがあるのはありがたい。



エリオットはその後、本を返却するため国立図書館へと向かった。
この時間に図書館付近を歩くこと自体が珍しいので初めて気付いたのだが、狩猟者らしき風体の者をよく目にした。
というより彼らに興味がなかったので今まで気付かなかっただけとも言える。
もしかしたら近くに狩猟者向けの施設でもあるのかもしれない、とエリオットは彼らの歩く方向をなんとなく見つめた。
そのうちの剣士らしき一人と目が合ってエリオットは慌てて目を逸らした。
興味本位でじろじろと見ていたらどんな絡まれ方をするかわからない。彼らとは関わらない方が身のためだ。

(……そういえばジンは「しばらく仕事ができなくなった」と言っていたな)

狩猟者の仕事の探し方の仕組みはエリオットには全くわからないが、ジンイェンはなにやら厄介なことに首を突っ込んでいるようだった。
難しい顔で考え込みながら図書館に入ると、すぐに顔なじみの職員と鉢合わせた。

「あっ!ヴィ、ヴィレノーさん、こここんにちは!」
「どうも」

先日世話になったばかりの男性職員が挨拶してきたので、エリオットも会釈した。
顔を赤くしながら興奮気味に職員が小走りに近づいてきたので反射的に後ずさる。しかしあっという間に距離を詰められて逃げ場をなくしてしまった。
エリオットはこの早口で忙しない職員――ロドニーがどうにも苦手だった。

「きょ、きょ、今日はどうしたんですか!?」
「本の返却に」

そっけなく言うと、ロドニーはますます顔を赤らめた。ひょろひょろの体を折り曲げてもじもじしている。
彼を見ているだけで疲れるので、エリオットはそっと目線を遠くにずらした。

「じゃ、じゃあ、僕が返却手続きし、しますね!」
「頼みます」

両手に分厚い本を五冊抱えたロドニーは棒のような動きでエリオットを返却窓口へと促す。
館内の場所はすでに熟知しているから案内される必要などないのだが、せっかくの厚意を無碍にするのも憚れてエリオットはそのあとをゆったりと着いていった。
返却する本、全部で三冊を手渡すと、一番上に置かれた空想小説を見てロドニーが目を丸くした。

「こ、こういう本、お好きなんですか?」
「いや、勧められて。ええと……シャ、シュズ――」
「シャ、シャズネイですか?」
「そう。彼女に」

少々覚えにくい名を誤魔化してエリオットは頷いた。

「こここれ、メルスタンでも大人気なんですよ!ぼ、僕も全巻持って、ます!」
「そうですか」

ロドニーは南のメルスタン王国出身らしく、聞いてもいないのに当地ではどうだのこうだのとエリオットにペラペラと喋る。



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