5


そのときエリオットは、もうひとつ、精油の別の使い道を思い出して頬を染めた。

「その……それ、潤滑油としても使えるらしいんだが……」
「えっ、そうなの?じゃあ今から使ってみよっか」

恋人の意を汲んで面白がるように応えたジンイェンがベッドの上で仰向けに寝そべる。
色気を含んだ笑みを浮かべた彼に「搾り取ってくれるんでしょ?」と誘われたエリオットも、恋人の上に跨った。
ジンイェンの衣服を全て脱がせて硬い胸元があらわになると、呼吸に合わせて上下するそこに頬を寄せた。とくとくという生命の音が耳奥に響いて吐息が漏れる。

「……きみにこうやって触れていいのは、僕だけだからな」
「もちろん」

ジュランの接近といいフゥの嫌がらせといい、恋人を『あちら側』だと主張するような態度の数々にエリオットは内心腹に据えかねていたのだ。理屈ではない、感情の部分で。
ジンイェンは、いつになく独占欲をむき出しにするエリオットの頬を両手で包み、さも愛おしげにキスをした。唇を啄ばみ、舌を甘噛みしながら深く口付ける。
唇が離れると、二人分の唾液で濡れたエリオットの舌で首筋や乳首を舐め上げられたジンイェンから甘い溜め息と声が零れ出た。
愛撫の最中にジンイェンに両乳首をきゅっと優しく摘まれたエリオットの口からも嬌声が上がる。

「あ……っ」
「んー?これだけで感じちゃうの?」
「きみの手を、お、覚えてしまってるから……」
「ほんっと、アンタって可愛い」

掌の触れ方も、愛撫の仕方も、素肌の温度も何もかもが刻み込まれている。少し触れただけで快感の期待に身体の奥が熱くなるほどに。
芯をもった左右の乳首を円を描くようにぐりぐりと押しつぶされて、エリオットはビクビクと腰を震わせた。
敷布の上に転がっていた精油瓶を手に取ったエリオットがおもむろに蓋を開ける。ふわりと花の香りが広がり、よりいっそう情欲の炎は燃え上がった。
傷に塗っていたときは何も感じなかった。けれど今はそれまでとは全く違った香りが鼻腔をくすぐり、スパイシーで甘酸っぱいような、えもいわれぬ芳香で淫らな気分が昂った。

精油を掌に出せば、あっという間に体温に馴染んだ。
エリオットはまず、硬くなりはじめている己の性器に塗ってみた。そのあとにジンイェンのものにも。
全身のうちで特に敏感な場所に塗るのだから、常にない反応をみせたりするのではないかと思っていた。
しかし心配したような異常な様子はなく、あるとすれば少量で伸び良く潤う程度だった。精油を塗り込めるためにそれぞれ擦りあげている間に、二人のペニスがぐんと上向く。

「ん……なんか、普通の香油とあんま変わんないね?」
「まあ、劇的な効果があっても怖いが……、あっ!」

ジンイェンが腰を浮かすと、上に跨っているエリオットとペニス同士が擦れ合った。
一瞬で下半身からぞくぞくと官能が駆け抜ける。花油で濡れ光る充血したふたつの雄が急激に熱を増した。

「んぅっ、あっ……!」
「あー……なるほど、こうすると、効果があるわけね」

言いながらジンイェンが突き上げるようにして腰を揺らした。そうして幹が再び擦れると、泉のように湧き上がる快楽でエリオットの体が震えた。
おそらく、単身で使えばただの香油でしかないのだろう。精油を塗ったもの同士が摩擦してはじめて、淫具としての効能を発揮するのだ。

「あ、あ……ジ、ンッ……」
「……いいねこれ。んっ、すげーいい……」

裏筋同士が擦れるたびに先端から透明な雫がとめどなく溢れる。
まるでペニス自身が鼓動しているかのようだ。
あまりの気持ち良さにエリオットは自身を何度もジンイェンに擦り付けた。ジンイェンもそんなエリオットに合わせて腰を突き上げ、その快感を追った。
二人の息が上がり、素肌が湿り気を帯びる。
エリオットのガウンは未だ脱ぎきれておらず半端にはだけたままだ。そんなことにも気が回らないほど二人は擦り合いに没頭した。

「ね、エリオット……俺もう、挿れたいな」
「ん……」

直接的で性急な台詞にもエリオットは素直に頷いた。エリオットのほうもそうして欲しくなったからだ。
ジンイェンに跨ったまま膝立ちになり、再び精油瓶の蓋を開けて傾ける。理性を狂わせる香りがまた強くなって眩暈がした。
自らガウンを捲り上げ、たっぷりと精油を絡ませた指を臀部の谷間に這わせる。とろりとした液体がそこを伝い、窄まりを濡らしてゆく。
呼吸するようにうごめくそこにエリオットは指先を潜り込ませた。さしたる抵抗もなく指がぬるりと入っていく。

「んんっ……ぅ、はぁ……っ」

穴の襞を押し広げ、花油を中に塗りたくる。内部の異物感にぞわりと鳥肌立つ。しかしジンイェンの視線に晒されていると思えばひどく淫乱な気持ちになった。
ジンイェンのほうも、自分でアナルを柔らかく解すという恋人のいやらしい姿を目の前にして生唾を飲み込んだ。
くちゅくちゅと卑猥な音が耳に届く。手伝うまでもなく、性交に慣れたエリオットのそこは指を容易に飲み込んでいた。
けれど恋人が欲しいあまりに二本の指ではもどかしくなってしまったエリオットは、熱っぽく潤んだ瞳をジンイェンに向けた。

「ジン……あの、いいか……?」
「俺はいつでも」

言葉の通り、間が空いたにも関わらずジンイェンのペニスは血管が浮くほど膨れあがっていた。
これも精油の効果か、それともエリオットの痴態を堪能した興奮のためか――あるいはどちらも。


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