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クロードとサイラスが退室したすぐあとに、エリオットにとって待ちかねたというべき人物が姿を見せた。
まずはティナードが入室した。続いて宮殿からの使者らしき老人と、身なりの良い使用人。
エリオットは再び立ち上がって頭を垂れ、無言で処断が下されるのをじっと待った。しかしティナードにぽんと優しく肩を叩かれて、弾かれたように顔を上げた。

「そう固くならずともいい。楽にしたまえ」
「ティナード旅団長……」
「ホライナス殿、こちらが件のエリオット・ヴィレノー准教授です。エリオット、この方はヴィタリ・ホライナス指導長だ」
「お初にお目にかかります、ホライナス様」

指導長という役職を初めて聞いたエリオットは、挨拶をしながらも内心訝しんだ。宮殿からの使者にしてはそぐわない肩書きのように思える。
ホライナス指導長なる人物は、小さな片眼鏡をかけた寸詰まりの老人で、横幅がエリオットの倍はありそうな紫のローブを羽織っている。ベストのボタンが実に窮屈そうだ。
禿頭で神経質そうな表情のホライナスは、傍に控えていた職人風の使用人に短く声をかけた。

「採寸を」

採寸という場にそぐわぬ単語が聞こえて、エリオットは首を傾げた。

「失礼いたします」
「は、はぁ」

使用人の男は気の抜けた返答をしたエリオットのローブを脱がせ、服の上から長い紐を押し当てて肩幅や身丈、胴回りなどを黙々と測った。
頭の中にメモをしているようで紙に書き付けたりはしていない。そして採寸の間、ホライナスは検分するようにエリオットのことをじろじろと見ていた。
採寸はすぐに終わり、再びローブを羽織らされる。身支度が元通りになり仕立て屋と思しき使用人が退室すると、ホライナスが平坦な声を発した。

「宮殿に立ち入るのに、その古めかしいローブではいささか目立ちますのでな」
「…………」

ホライナスから第一に向けられた言葉が自身の身なりのことだったので、エリオットは唖然とした。
その台詞から宮殿内に連れて行かれるということは判断できた。しかし理由を明かされていない。
どういうことかとティナードに視線を向けると、彼はわずかに微笑んでいた。

「もしや、恐ろしい想像でもしていたかな」
「……いいえ」
「きみにとって決して悪くない事態だ。むしろ出世といってもいいかもしれんな」
「それは……どういう意味でしょうか。ご説明いただきたいのですが」

ティナードは頷いて、エリオットとホライナスをテーブルにつくよう促した。
三人が着席したそのタイミングで、ティーセットを乗せたワゴンを押す女中二人が恭しく入室した。
女中が茶の用意をしている間に、ティナードが懐からパイプ煙草を取り出して火をつけた。香草のような爽やかさと少し甘い香りのする煙が空中に溶ける。

「エリオット。きみは昨夜、ある人物に会ったようだね」
「はい」

離宮内とはいえどこに悪しき耳があるか分からないので、ティナードはわざと曖昧な言い方をしている。昨夜のことはあくまで極秘事項で通すようだ。

「やはり、そのことで何か問題が――」
「問題はあるが、それはエリオットにではないよ。実はきみに、あの方の教師役に就いてほしいのだよ」
「……え?」

予想もしていなかった言葉に、エリオットはぎょっとした。


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