昼下がりの情熱


エリオットが驚いたことには、騒ぎの的であるパーティとジンイェンとは顔見知りだった。以前、ともに仕事をしたことがあったのだという。
そうなると同業者として無視することもできず、無事の帰還を祝っているうちに時間は過ぎていった。

昼もとうに過ぎた頃、ようやく所内は落ち着きを取り戻したが、続々と人が集まっているところを見ると夜を徹しての祝宴になりそうだった。

エリオットとジンイェンは、グランとその場で解散して外に出た。
遠くの空の色が濃くなってきているのを見たエリオットは、少なからず落胆した。

「……すまない、ジン。そろそろ時間だ」
「えっマジで?もう?てっきり夜まで大丈夫なのかと思ったのに」
「はっきりといつまでに戻れとは言われてないが、さすがにあまり遅くなるとまずい」
「えーそうなんだ」
「だから、その……できれば残りの時間は二人で過ごしたい」

振り返ってみれば、二人になれたのは朝の短い時間だけだった。
今日はグランと会うことが目的だったとはいえ、それだけではあまりにも味気ない。
エリオットの言葉を受けてジンイェンは含みのある笑みを浮かべた。

「じゃ、うってつけの場所に行こうか?」
「うってつけの場所?」
「まあまあついてきて」

ジンイェンに肩を抱かれながら歩き出す。歩いているうちにだんだんひと気の少ない路地に入った。
そうして案内されたのは民家風の簡素な建物だった。どうということもないただの宿屋に見える。
てっきりパブのような場所に行くか<トヌカとヤトゥン>に戻るのかと思っていたエリオットは、困惑しつつ促されて建物に入った。

「……ジン、ここは」
「んー二人っきりになれる場所?」
「いや、あの、というか……」

ジンイェンが宿の従業員に銅貨をいくつか渡すと部屋の鍵を渡された。
階段を上がった先の個室の中では小さな丸テーブルと椅子のほかに、ベッドが置かれているのが目に入った。
普通の安宿ではあるが、その目的を察してエリオットは深い溜め息を吐いた。

「ジン……」
「あれっ、違った?珍しく可愛いこと言うからてっきりそっちのことかと」
「二人きりというのは、そ、そういう意味で言ったんじゃない」
「まぁいいんじゃない?ここなら人の目も邪魔も入んないし、二人っきりには違いないでしょ」
「そうかもしれないが……、ん」

ジンイェンはエリオットの杖を取り上げて壁に立てかけてから、その体を抱き寄せて軽く口付けた。
何度かキスを受けているうちにエリオットもだんだん気分が乗ってきて、ジンイェンの背に手を回した。

「それともお貴族様はこんな狭苦しいところは性に合わない?」
「僕を馬鹿にしてるのか」

軽口を真に受けてむすっとしたエリオットを見て、ジンイェンがけらけらと笑う。

「やだなーしてないって!じゃあさ、宮廷でのこと聞かせてよ。嫌なことあったんでしょ?」
「……ああ」
「何かされた?」
「というより、宮廷という場所も、そこにいる人間も全てが特異すぎて疲れたんだ」
「ふーん?だから今朝、あんな辛気臭い顔してたんだ。クロードとは会ったの?」
「いや、会ってな……あっ、おい、ジン!」

ジンイェンの手が腰のあたりを滑った。その触れ方が官能的でエリオットの体が甘く震えた。
制止の声にもおかまいなしで、不埒な手は服の上から体の線を辿るように這った。

「ラルフとは?」
「隠すことでもないから言うが、宮廷に不慣れなうちはあいつに世話になってるんだ。いや、ええと、午後の数時間だけで、ずっとってわけじゃない」
「へー……?」
「ラルフと二人きりにはならないから、ジン……、っあ」

耳にふぅと息を吹きかけたジンイェンが続けて白い首筋に吸い付く。
敏感な箇所を不意打ちのように責められて、エリオットの口から控えめな喘ぎ声が漏れた。
エリオットの衣服が巧みな手さばきで次々と暴かれてゆく。

「それから、他には?不満とか愚痴あるんでしょ?言っちゃいなよ」
「ジ、ジン、そんな」

立ったまま半裸の状態にされていることに気付いたエリオットは頬を染めた。
初心な反応に気を良くしたジンイェンが、喉の奥で笑いながら低く囁いた。

「ね、次いつ会えるかわかんないし、ヤリ溜めしとこうよ」
「もうちょっと他の言い方はないのか……」
「えーこれ以上どうやって言えばいいの?愛の確認作業しようとか?うわ、自分で言ってて寒っ。つーか、アンタがほんとに嫌ならやんないって」
「……嫌なわけないだろう」

エリオットはジンイェンの唇にキスを返した。そしていささか品がないと思いつつ、体を密着させて自らの下半身をすり寄せた。
こうして性に開放的になってきたのは好色な恋人に感化されたせいだろう。
そうされたジンイェンのほうは嬉しそうに笑ってその腰を強く抱いた。

そのまま舌を絡めあうキスをし、やがて二人はベッドに沈み込んだ。


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