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一連の説明を聞き終えたジンイェンとグランは、理解しかねるといった様子の生返事で相槌を打った。

「まあ、要するにそのロッカニアで拾った石――瞳の石?だっけ?そいつはやっぱり何か重要なモンだってことなんだろ」
「いや……分からない。恥ずかしながら僕も直感というか……なんとなくそう思っただけで、瞳の石というのは、もっと違う、何か別のものかもしれない」
「石の真ん中にある黒い筋を瞳孔に見立てて瞳って見えなくもないし、案外そうかもよ。勘ってのは侮れないぜー?狩猟者稼業はそこに頼ってるとこもあるし。な、ジン?」
「えぇ、俺に聞くの?」

急に話を振られたジンイェンは苦笑を漏らした。
エリオットはそんな彼に体を向け、請うように目線を下げた。

「きみの意見も聞きたい、ジン」
「えー?うーん、俺は部外者だし事情よく分かんないから意見も何もないけど……でも、引っかかるってことは何かしらあるのかもしれないし、直感に従って注意を向けるのは大事だと思うよ。勘は経験から培われるってこともあるし、侮れないってのは同意」
「ふむ」
「つか、もしその石が始祖種族のものなんだとしたら、あの人たちに聞けばいんじゃない?」
「始祖種族か……」
「宮廷にはいっぱいいるんじゃないの?そういう、古い道具とか言い伝えみたいなのに詳しそうな人」

宮廷、始祖種族と聞いてエリオットはティナード旅団長と、そしてサイラスの顔を思い出した。サイラス――ステラ族の濃い血統を持つ彼のことだ。

「心当たりありそうだね?」
「いや……ステラ族の青年がいて、少し話をしたんだが」
「ステラ族?へぇ、珍しーね。ここ数年見たことないなぁ」
「あ、そういやエリオットって宮廷に滞在中なんだっけ?」
「ああ」

会話に割り込んできたグランは少し考える素振りを見せて指であごを叩いた。

「ステラ族、ステラ族、の男……あのさ、ちょっと聞くけど、そいつの名前ってなに?」
「サイラス・バルディレオ殿だ」

名前を聞いた途端、グランがパチンと指を鳴らした。

「あーあぁ!そうそう、サイラスな、そんな名前だった!兄貴に聞いたことあるわ!」
「きみ、兄上がいるのか」
「俺も初耳」
「結構、年離れてるけどな。兄貴さ、宮廷で衛兵やってるんだよ。俺んちの稼ぎ頭」

グランは誇らしげにそう言った。
彼の家は職人筋というわけではなくごくありふれた一般家庭なのだが、そんななか兄は実に優秀で、宮廷に勤めるまで登りつめたのだという。
衛兵として勤める間に宮廷で見聞きしたことを面白おかしくグランに話すのだが、その中にサイラス・バルディレオの話題もあったのだ。

「宮廷内じゃ有名人だろ?森出身のステラ族」
「そうか、彼は森の民なのか……」

あれだけ種族の特徴が濃い理由はそこにあったようだ。
森の民――大陸中央部に位置するローグローグの森には多くの始祖種族やその亜種が住んでいる。
大戦後、人間に秘術を授ける代わりに居住権を得た始祖種族たち。その居住区として彼らが選んだローグローグの森はいかなる国も不可侵の場所だ。

「ただの森人じゃねーよ。ステラ族の族長の血縁だろ?たしか」
「すまないが、僕はそのあたりの事情を知らないんだ」
「えーっと、よく分かんないけど、そんなご大層な森の民なら色々詳しいんじゃないの?聞いてみれば?」

ジンイェンに進言されたがエリオットは曖昧に唸った。
苦手と感じている人物と話をするのは実に気が進まないものだ。

「……宮廷内でも地位の高い方だから、そう気軽には……」

言葉を濁したあたりで話の流れを急に遮られた。
階下でどよめきと歓声が起こり、それが二階の広間にも伝播したからだ。
どうやら長期遠征から帰ってきた討伐隊が斡旋所に到着したらしく、その歓迎の騒動だった。狩猟者界隈では有名な屈強揃いのパーティで人望もあるのだという。

エリオットがジンイェンからその説明を聞いているうちに、凱旋祝いにと酒や軽食が無料でふるまわれたことで、斡旋所内はお祭り騒ぎに発展した。
そうなれば話どころではなく斡旋所を出るのにも苦労する有様で、予定外ではあったが三人とも祝宴に参加することになった。


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