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「あんたが元気そうでよかったよ。中毒、あのあと大丈夫だったか?」
「ああ、大事ない。きみのおかげだ」
「応急措置だったから結構ヒヤヒヤしたんだけどさ。ジルタイトも……うん、今は安定してるみてーだな」

エリオットの杖先の白いジルタイト石を見て、グランは安堵の息を吐いた。
ところがそれを聞いて穏やかではなかったのがジンイェンだ。

「ちょっと何その中毒って。俺、聞いてないんだけど?」
「魔術の使いすぎでな。でも、危なくなる前にグランが処置をしてくれて助かったんだ」
「マジで?えー……じゃあエリオット、あのとき本気でヤバかったんだ」
「もう過ぎたことだ」

心配性の恋人の非難めいた視線が飛んできて、エリオットは居心地悪く肩をすくめた。
いつまでも追及されそうな空気を感じたグランは、そうなる前にとすぐに話題を切り替えた。

「そんでエリオット、俺に用ってなに?」
「ロッカニア地下遺跡できみから渡された石のことで」
「やっぱりな。あんたに預けて正解だったみたいだ。で、あれは何だった?」
「え?」

グランの質問にエリオットはぽかんとしながら切り返した。

「いや、それはこちらの台詞なんだが……。あれから色々調べてみたが分からずじまいだったから、こうしてきみに聞きにきたんだ」
「えっ!?あー、なんだ、あんたでも分かんなかったのかよ」

がっかりとした様子のグランは、まず自分側の考えを披露しはじめた。
ベヌート討伐後、鉱石の選り分けしていた際に正体不明の石を見つけたことに端を発する。
それは鉱石とも魔石とも質の違うもので、ただ、形を整えられているところから、かつて人の手が入ったものだということはかろうじて判別できた。
そして考えた末、エリオットに託したのだった。昏倒している間のことで詳しい説明ができなかったのは申し訳なかったと、グランは謝った。

「石の中心に黒い筋みたいなもんが見えただろ?ルチルの類かと思ったんだけど、それとも違うみたいでさ」
「その、それをなぜ僕に?僕は石の種類には明るくないんだが――」
「ただの勘。……ていうのはまあ乱暴だけど、そうしたほうがいいと思ったから。研磨の仕方がな、なんとなく、魔術の儀式に使うようなものだったんじゃねーかなって感じがしたから」

儀式と聞いてどきりとする。エリオットはローブのポケットから小袋を取り出した。中には件の石が入っている。
黙って二人のやりとりを聞いていたジンイェンも興味津々でその手元を覗き込んだ。

「それに、覚えてるか?ロッカニア地下遺跡には祭壇やサレクト教徒の石室があっただろ。あの場所の詳しい由来や起源は知らねぇけど、たぶん始祖種族の宗教施設だったんじゃないか。
 ベヌートは何百年も生きてるベヌのことだ。あのとき倒したあいつ、遺跡になる前のロッカニアにあった装身具や、魔術道具を溜め込んでたんじゃないかって気がすんだよ」
「つまり……これは始祖種族の持ち物だったかもしれない、と言いたいのか?」
「地下遺跡の細かい資料もないし推測の域を出ねーけどな。で、もしそういう代物だったとしたら、さすがに俺の手には負えないから、あんたに託したんだ」

袋に入ったままの石を握り込む。そうしても何も感じるものはない。エリオットにはただの石ころ同然のようにしか思えなかった。

「……そもそも、きみに会いに来たのは精霊王との対話で感じるものがあったからだ」
「精霊王?対話?」
「ああ、すまない。簡単に言えば『お告げ』のようなものだ」

精霊界はあらゆる面でこちらの世界とは異なる。その最たるものは『時間』という概念だ。
こちらでは時間は川の流れのように留まることをせず、進む方向が決まっている。しかし精霊界の時間というものはその枠に当てはまらない。
止まっていることもあれば逆に流れたりもする。断続的で刹那的だ。
禁呪である時の魔法は、それを利用するのだ。世界の理を乱す精霊界の法則だからこその禁断の術なのだ。

一方で、精霊王やその眷属が各地で同時刻に召喚されたとしてもこちらの世界で存在できるのは、これのおかげでもある。
過去の、あるいは現在、未来のいずれかの精霊王がそこに喚ばれているのだ。

エリオットがフェノーザ校で対話をしたのは『未来の精霊王』だった可能性が高い。彼らとの絆が深ければ、そういった『お告げ』めいたものを授かることが稀にある。
精霊王が告げてきた『瞳の石』というワードも、これから起こる何かに関係するに違いない――エリオットはそう考えていた。


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