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何枚あるのか数えるのも難しいほどの仕事依頼の数だ。
興味本位からそれらの内容を手近なものから読んでいく。

依頼内容、募集人数、期間、最低限保障される報酬、だいたいこれらが共通して書かれている。
補足として『女性のみ』だの『魔法使の未経験者歓迎』だのと書き添えられているものも多々あった。中でもやはり、傭兵と、魔獣や魔物の退治・駆除依頼が多く見られる。

エリオットはふと壁の際に目をやった。ジョレットの斡旋所と同じく人気のなさそうな黄ばんだ用紙が端に追いやられている。
その中のひとつ、日に焼けてたわんでいる紙に吸い寄せられるように足を向けた。

(……これは……)

小さな紙に書かれた依頼――『図書館で「マローのつきよのぼうけん」という本を探してきてください』。
これには見覚えがあった。全く同じものをジョレットの斡旋所でも見たのだ。
絵本を探すという、一見して簡単な依頼が誰にも見向きされていないというところまでが同じだと思うと、ぞっとするものがあった。

それに釘付けになっていると、いつの間にか隣に立つ者の気配があった。肘くらいまでの長さの杖を持った女性魔法使だ。
彼女は無理矢理体をねじ込んで黄ばんだ用紙の隣にある依頼をさっと剥がした。ちょうどエリオットの眼前にあった用紙だったので、取られる前にと思ってそうした行動に出たのだろう。
あきらかに絵本の依頼の方が簡単そうに見えるが、誰も気にする者はいなかった。

「おーまたせ!」

背後から肩に腕を回され、エリオットはびくんと震えた。
慌てて振り向くと、ジンイェンが首を傾げながらニヤニヤとした笑みを浮かべているのが目に入った。

「どーしたの。変な顔して」
「あ、いや、それが……ジン、ちょっと聞いていいか?」
「ん?なーに」
「この……これだ、この依頼はどうして誰も請けてないんだ?本を一冊借りてくるだけなら簡単だろう」
「へぇ、そんなこと書いてあるんだ」

のんびりとしたジンイェンの言葉に再び驚く。
彼は壁に張り付いた黄ばんだ用紙をぺらぺらと捲くり、裏面も見た。

「ああそっか。エリオットは知らないんだね。こういうの珍しくないよ。ある一定の条件で読める依頼ってやつ。
 俺にはただの白紙に見えるけど、例えばアンタみたいな高位の魔法使じゃなきゃ読めない……とかね。逆に、盗賊同士にしか通じない暗号で書かれた依頼もあるよ」

ほら、とジンイェンが指差した先には、たしかに一見意味のないような単語の羅列があった。その隣には始祖種族の古い言語で書かれているらしい難解な文章の依頼もある。

「なるほど。依頼といっても色々あるんだな」
「まあね。ただ、そういうのって高額報酬の反面すげー面倒な仕事だったりするから、請けるときは慎重になるけど。……さてと、俺の用は済んだしこっちに来て」
「ここで待つんじゃないのか?」
「上に待ち合わせ部屋があるから」

ジンイェンのあとについて二階に上がると、酒場のようにテーブルと椅子が所狭しと置かれている広間があった。そこにも多くの人々が密集していて、むせ返るような人いきれにエリオットは少し酔った。

大声で笑い合っている者、不穏な空気のまま無言で睨み合っている集団、早口で分配金の相談をしている様子などを横目に人の波をかき分けていくと、いつか見た赤毛の青年の姿があった。
鍛冶師のグランだ。

「おっせーよ、ジン!」
「やーごめんごめん。下で手間取っちゃってさぁ」
「たまには時間通り来いっての。……お、エリオットだよな?ロッカニアでは世話んなったな」
「急に呼び立ててすまなかった、グラン。来てくれてありがとう。どうしてもきみと話をしたくて」
「いいって。俺も色々気になってたから」

エリオットが改めて挨拶をしようとするのをグランは制止した。
三人は広間の隅に空いていたテーブルにつき、さっそく顔を寄せ合った。


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