逢瀬


今日だけ、という口ぶりだったラルフだったが、結局その後三日間エリオットの世話役として顔を見せた。
午前中はトリスタが側に付き、午後にはラルフに交代するといういささか慌しいものだった。

トリスタは実に物静かな少年で、質問をすればすらすらと答えが出る代わりに自発的に発言をする様子をほとんど見せなかった。
子弟としての立場を弁えているのか、それとも元からこのような性格なのか――どちらなのかは浅い付き合いのうちでは見抜けなかった。

一方のラルフは、エリオットといる午後の間に宮廷魔法使のことを饒舌に話して聞かせた。
組織内の重要人物と要注意人物、古くからのしきたりや暗黙のルール等々、それらは実に多岐に渡った。
宮廷の見学よりもラルフと話している時間のほうが長いほどだった。
ラルフは宮廷内でなかなかの人望を得ているようで、ともにいると自然と人が集まってくる。学生時代と変わらないその光景に、エリオットは懐かしく思った。

また、初日以降サイラスが姿を現すことはなかった。
次に会ったときには何を言われるかと身構えていたのだが、肩透かしを食らったような心持ちだ。

そして、宮廷に招致された本来の目的であるリゲラルト師団長からの呼び立てもなかった。





宮廷での三日間が過ぎ、その翌日。トリスタから朝の挨拶とともに、初日に申請していた外出許可の旨も告げられた。
当日の朝に許可が下りるあたりに、宮廷魔法使という組織の鷹揚さが感じられる。

「そうか、よかった。急ですまなかったな」
「いいえ。それから、ワイズヴァイン隊長から杖屋の予約も取り付けたとの伝言もありました。外出なさるなら、その間、杖を預けますか?」
「そうだな……」

エリオットは少し考えてから、断りの文句を口にした。
前回首都を訪れた際に巻き込まれた魔物襲撃事件のことを思い出したからだ。またあのようなことがあるとは思えないが、用心だけはしておきたい。
トリスタは頷き、「そのように伝えます」とそつなく返事をした。

未来の宮廷魔法使であるはずの少年は子弟というよりも従僕らしさが身についていた。
朝は混雑するという理由からエリオットの朝食はあてがわれた個室でとることになっているのだが、その用意もトリスタの仕事だった。

支度を終えるとトリスタとともに転移の間から南の門近くへ繋がる魔法陣をくぐった。

「送ってくれてありがとう、トリスタ」
「エリオット様、あの……お帰りは」
「ああ、遅くならないうちに帰るようにする」
「……分かりました。お気をつけて」

送ってくれたトリスタと短い別れの挨拶を交わし、小さめの門を抜けた。
この南の門はいわば通用口であり、宮廷住まいの者は外出時にこの場所を使うのだという。市街に比較的近く交通の便も良いというのが、ラルフから聞いていた事前知識だ。
しかしエリオットは客人ということで行き帰り用に宮廷魔法使の馬車を手配された。
それは宮廷側の厚意というよりは、出来る限り監視下に置きたいという圧力に感じられた。


大聖堂前に馬車が着くとエリオットは一枚の紙を懐から取り出した。紙にはガランズの市街地図が描かれている。

地図は、ジンイェンが寝泊りする予定の宿屋の場所に丸印が付けられている。少し遠いが大聖堂から歩いて行けない距離でもない。
まだ朝靄の濃い時間で、待ち合わせよりかなり早く着いてしまったことでふと思い立ったのだった。ただ待っているより会いに行ってしまった方が手っ取り早いと。
なにより、彼の顔が見たくてたまらなかった。たった三日離れていただけだというのに。

情動に突き動かされるように、エリオットは早足で歩き出した。


prev / next

←back


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -