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目論見が外れたことに悔しがるかと思えば、サイラスの表情はますます明るく輝いた。

「さすが、期待されてるだけあるね〜!」
「期待?」
「うんうん。みんなキミと仲良くしたくてしょうがないんだよね」
「そうですか……」
「あれ、もしかしてェ……意味分かってない?」
「え?」
「キミと交わりたいって言ってんの」

交わる、と聞いてエリオットはサイラスを驚いたように見た。彼はニヤニヤとした厭らしい笑みを浮かべている。

「もしかしてさぁ、キミって『交わり』もなしにそこまで強い魔力持ってんの?」
「……どういう意味ですか」
「そのまんまの意味だよ。『交わり』は魔法使にとって魔力を高める古式ゆかしい儀式でしょー?貴族ってことは始祖種族の血統だと思うけど、純粋にそれなら驚きだね」

『交わり』とは、つまり『魔力交合』のことだ。それは魔法使同士ならば決して外法とも言い切れない。むしろ納得できるほどだ。
しかし決まった相手以外の者と、しかも同性と性的関係を持つことは倫理的に――否、宗教柄好ましくない。

(……そうか)

始祖種族の信仰、サレクト教はそういった縛りがない。だから彼らは強力な魔力を持っていた。忘却大陸に迎合した際、その思想が先住民の土着信仰に捻じ曲げられ魔力は弱体化したのではないか――。
そしてサイラスによれば宮廷魔法使はその『古式ゆかしい儀式』を積極的に行っているという口ぶりだ。
組織には様々なルールがある。部外者である以上それを表立って否定はしないが、エリオットは胸が悪くなる思いだった。

「これは秘密なんだけどね、宮廷魔法使はさ、見た目の良さも重要なんだ。ざっと見回しただけでもなかなかの美男揃いだろ」
「…………」
「だって『交わる』なら相手の容姿が優れてる方がいいって当然思うでしょ?」

サイラスの笑みが深くなる。

「エリオットは、そういう意味でも『宮廷向き』だと思うなぁ」

嘗め回すように全身を見られ、エリオットは鳥肌立った。
男と同衾したことがあるのを見抜かれているようだった。恋人であるジンイェン以外とどうこうなりたいとは全く思わないし性的な魅力も感じない。しかし周囲はそうではないという。

「……僕は、ただの一時滞在者です。そういうことは遠慮します」
「あれっ、そうなの?リゲラルト師団長がいい人材を探してきたって聞いてたから、てっきりオレたちの仲間になるんだと思ってたけどぉ」
「ご冗談を」
「オレはエリオットのこと気に入ったよ。ぜひ友達になってほしいな」

それがどういう類の『友達』か判然とせず、エリオットは首肯も否定もしなかった。サイラスが頑ななその態度にやれやれと首を傾げる。

「とにかくー、みんなキミには期待してるんだ。黒竜を討伐した実力者で、家柄も申し分ない。おまけに噂以上の美人とくれば、これを逃す手はないね」
「……僕は……」
「おいおいそこまでにしとけって、サイラス」

背後からグッと肩を掴まれてエリオットは急いで顔を上げた。そこにはラルフの皮肉げな笑みがあり、馴染みの姿にホッと安堵した。

「ラルフ……」
「サイラスなんかの言葉を信じてんじゃねぇよ。お前をからかってるだけだからな」
「いいところだったのにィ」

けたけたと声高に笑うサイラスに、ラルフが拳で強めに小突いた。二人の親しげなその様に、友人のような気軽さが伝わってくる。

「なぁんだ、もう来ちゃったんだ」
「トリスタが教えてくれたんでな」
「あれれ、今日キミって宮殿の警護じゃなかったのかな?」
「昼交代だ」
「あぁ〜そんな時間か」

残念、とサイラスが大げさに嘆息する。

「エリオット、昼飯は?」
「……まだだが」
「ちょうどいい、食堂に案内してやるよ」
「いいな〜オレも行きたいなァ」
「お前は仕事だろ?」
「あはっ、よく知ってるねー。じゃ、そろそろ行かなくちゃ。これから敬愛する上司殿の付き添いなんだよね」

エリオットがラルフに腕を引かれてサイラスから離される。サイラスはそれを見届けると、笑顔を引き締め神妙な表情になった。

「――オルギット旅団、副旅団長サイラス・バルディレオ。以後お見知りおきを、エリオット」

そう名乗り、去り際に彼は恭しく一礼した。


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