宮廷へ


首都、出発の日。エリオットは最低限の着替えと日用品を旅行鞄に詰め、杖も皮袋に収納して準備万端で臨んだ。
ジンイェンはすでにカルルと一緒に朝一の乗合馬車で出発していて、現地で落ち合うことになっている。
不在の間は、家の管理を近くに住んでいる従者に任せることにした。
エリオットがティアンヌと過ごしていた頃から世話になっていた中年男性で、ヴィレノー家の使用人だ。エリオットに一人暮らしの手解きをした人物でもある。魔法使ではないが長年ヴィレノー家に仕えている忠実な従者である。

本来ならば主人であるエリオットに暇を出されたら、本家のあるコーラントに戻るのが筋なのだが、エリオットを幼い頃から世話していた彼は離れることを良しとしなかった。
なので普段は庭の世話や、このように不在の間の管理などを任せている。空いた時間は内職をしていると聞いている。

薄っぺらい長方形の眼鏡をかけた白髪まじりの従者、ウィリスは出立前のエリオットに深々とお辞儀をした。

「帰りはいつになるか分からないから、その間よろしく頼む」
「承知いたしました、旦那様」

ウィリスは頷きながらも物言いたげな視線を投げかけてきた。それに気付き先を促す。

「どうした?」
「は、その……ひとつお聞かせ願えますか」
「ああ、構わない」
「近頃屋敷に出入りしている男は、何者でしょうか」

そう聞かれてジンイェンのことを指しているのだとすぐに察する。
ウィリスも屋敷に通っているのだから彼の姿を見ることも多々あっただろう。しかし主人の私情に出しゃばらずに仕えるのが使用人の本分、今まで聞くに聞けずにいたようだ。

「……彼には、主に僕の食事を任せている」
「下男ということでよろしいですか」
「まぁ……そうだな。その、見た目は少々奇抜だが、決して悪い青年ではないよ」

歯に物が挟まったような言い方になってしまったが、それ以上の説明も出来ずエリオットは言葉を切った。まさかここで彼が恋人だと伝えることは出来ない。
ウィリスもその言葉を信じきっているわけではないのだろうが、使用人らしく従順に頷いてみせた。

「心配はないから、ウィリスも彼とうまくやって欲しい」
「畏まりました」

おそらくすでに二人は接触しているのだろう。その証拠にウィリスから戸惑ったような気配が感じられる。
おかしなことをウィリスに言っていないか、あとでジンイェンに問い質さなければならないと心に決めて、エリオットは屋敷を発った。



prev / next

←back


×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -