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二時間ほどで交信は終了した。精霊王との対話としては非常に短い方だ。術者によっては丸一日続くこともある。
炎の精霊王が姿を消すと、エリオットは肩の力を抜いた。

「エリオット君、どうだったかね!?」

広間の壁際からフェリクスの大声が響いてきたので、そちらへと移動する。フェリクスの傍らで、エリオットはローブの裾で額に滲んだ汗を拭った。

「……はい、やはり、その……あまり機嫌が良い方ではありませんでした」
「しかし精霊王はそこまで機嫌を損ねていないように見えたよ。きみと炎の精霊王は絆深いから大丈夫だとは思っていたけれどね!」
「そうですね……」

エリオットの目が泳いでいるのに気付き、フェリクスは首を傾げた。

「何か気にかかることでも?」
「ええと……教授は魔石や鉱石の類について詳しいでしょうか」
「石か――。それはミランジュ教授の専門だから、僕は門外漢だね」
「そう……ですよね。あ、いえ、精霊王が気になることを伝えてきたので、少し」

伝えるべきかどうするかと迷いながら、エリオットはフェリクスを見た。
フェリクスも腕を組んで静かにそれを促す。

「聞いてもいいかい?」
「……『瞳の石』とだけ」
「『瞳の石』?」
「ご存知ですか」
「いや……」

顎に手を当てて知識の泉を浚ってみるが、そのような単語に心当たりはなかった。
一方でエリオットに確信めいたものを感じてフェリクスは慎重に口を開いた。

「何か、心当たりがありそうだね」
「……ある、かも……しれません」

エリオットらしからぬ曖昧な返答に、フェリクスに笑みが浮かぶ。

「ならばきみの中ですでに答えは出ているはずだ。僕が手伝えることはあるかな?」
「いいえ。私の知り合いに聞くのが妥当かと思います」
「なるほど。そうするといい」

教授とその生徒のような問答をして、エリオットとフェリクスは場を解散した。
エリオットは自宅に戻るとジンイェンの帰りを待って、あらかじめ用意していた質問を投げかけた。

「ジン、きみ、鍛冶師のグランと知り合いか?」
「ん?ああ、それなりにね。何で?」
「彼はどこに住んでいる?少し話がしたいんだ」
「えー……どうだったかなぁ。ガランズに住んでるってことしか知らないんだけど。向こうの斡旋所に行けば会えるんじゃない?」

首都ならば余計都合がいい。宮廷滞在中に時間を作って会いに行ける、そう考えてエリオットはひとつ頷いた。

「ガランズに着いたら案内してくれないか」
「いいよ。つか俺、あいつのこと探しておこうか?」
「そうしてくれると助かる」
「りょーかい。で、何の話?」
「石の話だ」

エリオット自身おぼろげにしか分からないが『瞳の石』と聞いてすぐに思い至ったのだ。
それはロッカニア地下遺跡の時にグランから託された、あの不思議な石のことだった。



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